両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和4年3月9日、AERA

子どもを連れ去った親は「未成年者略取誘拐罪」になる? 警察発表が広げた波紋

筆者:上条まゆみ

「離婚話でもめていたある日、夫は5歳の子どもを自分の実家に無理やり連れて行ってしまいました。私が元夫の実家に行っても、ドアを開けてくれません。数カ月たった今も子どもに会えず、つらい思いをしています」

涙ながらに語るのは、神奈川県在住の長原映美さん(仮名・38歳)。

 夫の母親からの過干渉が原因で、夫婦仲が悪くなった。夫婦げんかになったある日、人格を否定されるような発言をされ、映美さんは思わず泣いてしまったという。そうすると、夫にいきなり警察を呼ばれた。夫は「妻は精神疾患で、今、暴れて子どもを殺そうとした」と、大うそをついた。

「それを信じた警察は、その場にいた夫の母親が私を羽交い締めにしている間に夫が車に子どもを乗せて出て行ってしまうのを、そのまま見ていました。私がどんなに『止めてください!』と言っても聞いてくれず、『数日して、あなたの気持ちが落ち着いたら帰ってくると言っているんだから、それを待ちましょう』と。私が『もし、夫と子どもが帰ってこなかったら、責任取ってくれますね?』と念を押したら、『大丈夫です』と言ったので、私はそれを信じたんです。でも、結局、夫も子どもも帰ってこなかった……」

 数日後、映美さんは警察を訪ねた。「帰ってこなかったら、責任を取ってくれる」と言ったからには、警察が夫を説得して、家に帰してくれると思ったからだ。

 映美さんが「夫も子どもも帰ってこない」と言うと、警察は驚いたようだった。そして、「あなたの夫の言葉を信じてしまったことは申し訳ない」としながらも、こう言った。

「民事不介入の原則があるので、残念ですが、あなたを助けることはできません」

 親子が同居している状態から、一方の親がもう1人の親の同意を得ずに子どもを連れて家を出ていく行為は後を絶たない。子どもや配偶者へのDVから逃れる緊急避難的な措置ではなく、映美さんのような夫婦げんかの延長で、そうした行為に及ぶ「子どもの連れ去り」は、ずっと問題視されてきた。連れ去られた親にしてみれば、子どもを誘拐されたような状態だが、警察は家庭内で起こった「民事」だとして積極的に動くことはない。

 一方、連れ去りの結果、別居している状態から子どもを「連れ戻す」行為は、刑法224条で規定される「未成年者略取誘拐罪」に当たるとされ、連れ戻そうとした親が警察に逮捕されることが多い。

 連れ去られた親は警察に訴えても何もしてくれないのに、子どもを連れ戻そうとすると逮捕される――こうした不条理な状況が常態化していたのだ。

 だが、ここにきてその状況が変わりつつある。

 2月4日、衆議院議員で、共同養育支援議員連盟の会長を務める柴山昌彦氏は、自身のツイッターでこう発信した。

<2月3日の共同養育支援議員連盟総会で政府と協議。片親による子の連れ去りについて警察庁はこれまで「法に基づき処理」一辺倒だったが、昨日ようやく、同居からの連れ去りか別居からの連れ戻しかを問わず、正当な理由がない限り未成年者略取誘拐罪にあたると明言。これを現場に徹底するとした>

 このツイートの重大なポイントは、警察庁が「同居からの連れ去りか別居からの連れ戻しかを問わず」「未成年者略取誘拐罪にあたると明言」したところにある。

 前述のように、これまで警察は、子どもの連れ去りについては「民事不介入」として、被害者の訴えを退けてきた。それが、柴山氏のツイートによれば、警察は今後、連れ去りであっても未成年者略取誘拐罪として扱う、というのだ。

 柴山氏のツイートに対しては、SNS上でもさまざまな意見が飛び交った。

 映美さんのように、配偶者に子どもを連れ去られた立場の人たちからは「連れ去りに対する大きな抑止力になる」と期待の声が上がった。

 逆に「これが現実になると、DVをされて子どもを連れて逃げた母親が罪に問われてしまう」という否定的な意見も少なくない。

 これに対し、柴山氏は次のように話す。

「DVについては『正当な理由』に当たりますので、DVをされて逃げた人が罪に問われることはありません。問題は、正当な理由がなく子どもを連れ去った人でも、それが罪に問われないばかりか、『監護の継続性』の原則によって連れ去りが正当化され、親権を獲得できてしまうということです」

 たとえば、映美さんのケースでも、子どもを連れ去られたままの状態で離婚になれば、子どもの親権はかなりの確率で連れ去った父親に渡るだろう。両親が親権を争う場合、家庭裁判所はその時点で子どもが居住している環境に特段問題がないと判断すれば、同居親に親権を認めることが多いからだ。これが「監護の継続性」と呼ばれ、親権を取るには子どもを連れ去ってでも同居すべきだと指南する弁護士もいたほどだ。

 これまでは、子どもを連れて家を出ていくのは圧倒的に母親が多く、世間の声もそれを前提としている。夫の暴力から命からがら逃げる母子は、たしかに法律で守られなければならない。しかし、目に入りやすい景色だけを見ていては、そこからこぼれ落ちた人の被害を見過ごすことになる。映美さんのように、母親であっても夫に子どもを連れ去られるケースも決して少なくないのだ。

「少なくとも、子連れ別居をしたら1カ月以内に調停の申し立てを義務づけ、保全処分などで急場の対応をしながら面会交流を進めるなど、親子が引き離されている状態を継続させないようにすべきです」(柴山氏)

 柴山氏が言うように、警察はこれから運用を改めるのだろうか。警察庁刑事局に「子どもの連れ去り」「連れ戻し」に対する見解と現場への周知について質問状を出すと、文書でこう回答した。

「子の連れ去り、連れ戻しについて、刑罰法令に触れるものがあれば、法と証拠に基づき適切に対処していきます」

「警察活動に資する情報等の都道府県警察への周知については、必要に応じ適宜適切に行っています」

 映美さんは淡い期待を込めてこう話す。

「もしかして、今、改めて訴えれば、警察は守ってくれるのでしょうか」

 子どもの連れ去りについて、警察は本腰を入れるのか。今後も注目したい。(上條まゆみ)

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