両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

離婚後単独親権の弊害

離婚後単独親権制度の弊害

2020年の人口動態統計の確定数(厚生労働省)によると国内の婚姻件数は525,507組で、離婚件数は193,253組であった。およそ3組に1組が離婚し、毎年20万人以上の未成年の子どもが親の離婚を経験する。

婚姻及び離婚件数、親が離婚した未成年の数
※出典:件数は人口動態統計を引用

婚姻件数離婚件数未成年の子の数※
1975(昭和50)941,628119,135121,223
1985(昭和60)735,850166,640202,585
1995(平成7)791,888199,016205,901
2005(平成17)714,265261,917262,345
2015(平成27)635,156226,215229,030
2017(平成29)606,866212,262213,756
2018(平成30)58,6481208,333219,808
2019(令和元)599,007208,496205,972
2020(令和2)525,507193,253194,129

※未成年の子の数は、「親が離婚した未成年の子の数」

2019rikontoukei
※グラフ出典:令和元年人口動態統計 年間推計(厚生労働省)

先進7カ国(G7)の中で、日本を除く国は離婚後も共同親権制度である。離婚後も両親が愛情をもって子どもの成長、発育にかかわることが子どもの利益となり、二人の親を持つという子どもの権利を守るものとして、各国は共同親権制度を採用している。

一方、日本では離婚後は単独親権制度を採用しており民法第819条で規定している。

【民法第819条】
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

民法第819条は、明治時代に規定された法律であり、法制定時と現在では社会や家族の形が大きく変わっているにもかかわらず、日本はかたくなに単独親権制度を維持している。そのため、以下のような一方の親への権利侵害や子どもへの悪影響など様々な問題が発生している。

婚姻中の連れ去り別居とその後の親子引き離しと権利侵害

面会交流調停及び子の引き渡し審判の新受件数
※出典:件数は司法統計を引用

面会交流調停子の引き渡し審判
2010(平成22)7,7491,203
2016(平成28)12,3411,956
2017(平成29)13,1662,068
2018(平成30)13,0102,176
2019(令和元)13,5342,250
2020(令和2)12,9292,462

父母の一方が、離婚後の子どもの親権を得るために、もう一方の配偶者に無断で子どもを連れ去り別居し、その後は子どもを非監護親(別居親)に会わせず引き離してしまう事例が多発している。非監護親は婚姻中にもかかわらず、共同親権の行使ができないという権利侵害が行われている。
また、母親(妻)が父親(夫)からDVがあったと虚偽の申し立てを行い、子どもをDVシェルターに囲い込む悪質な子どもの連れ去りにより、親子の関係を引き裂くなど父親と子どもへの人権侵害も行われている。

日本の裁判所は、親権決定の判断基準として「監護の継続性(継続性の原則)」を考慮しており、このような子どもの連れ去りを誘発し、『子どもの連れ去り勝ち』を引き起こし、海外から日本は"子どもの連れ去り大国"と強く非難されている。
民法の離婚後単独親権制度は、このように別居時に子どもの奪い合いを両親にさせ、家庭裁判所は、どちらかの親を親権者とさせるため、一方の親が親権者としての適性がないことをお互いに非難させるなど両親を戦わせるため高葛藤な関係となり、より別居親子の面会及び交流が困難となる。

民法766条の改正のための平成23年の衆議院法務委員会で、当時の江田法務大臣は、「合意ができる前にあえて無理して子を移動させてそして自分の管理下に置けば、後は継続性の原則で守られるという、そういうことはやっぱりあってはいけない」と答弁し、この法務大臣答弁を周知徹底するため最高裁から全裁判所に対し、少なくとも3回(平成23年8月3日、平成24年3月29日、平成26年3月17日)書簡が出されている(民法改正書簡参照)が、裁判所の運用は相変わらず、『子どもの連れ去り勝ち』のままである。

日本では、先にわが子を連れ去られ、その後子どもがもともと住んでいた自宅に連れ戻すと共同親権中にもかかわらず逮捕されることがある。別居時に、子どもを配偶者に連れ去られると二度と連れ去られた親の元に戻すことはできず、諸外国から「ブラックホールのような国」と揶揄されている。
日本の司法は、このように子どもの一方的な連れ去りを許しているが、平成25年4月に発効したハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)は、国境を越えた子どもの連れ去りを違法としており、同じ子どもの連れ去り問題に対し”ダブルスタンダード”な対応をとっている。
また、日本が平成6年に批准した「児童の権利に関する条約」は、第9条1項で「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。」、同3項で「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定しているが、世界標準の理念である『頻繁で継続的な親子の交流により子どもの最善の利益を守ること』を国内法及び法曹界は放棄している。

欧米諸国では『児童の権利に関する条約』の批准と前後して、離婚後の共同養育(共同監護・共同親権・共同親責任)制度が整備されている。子どもの健全な成長のために、両親は離婚後も「親子不分離の原則」(第9条第3項)や「共同親責任の原則」(第18条第1項)に則した共同養育の「義務」を負うのである[出典1]。

出典1:「面会交流の有無と自己肯定感/親和不全の関連について」(青木聡(あおきあきら) 大正大学人間学部臨床心理学科教授)

非監護親との引き離しによる子どもへの愛情遮断、片親疎外

日本では、非監護親との面会交流が子どもの権利として保証されていないため、監護親の意思で引き離しが可能である。
「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」(厚生労働省)によると子どもが非監護親と面会交流をしている割合は母子世帯でわずか29.8%、父子世帯で45.5%である[出典2]。

面会交流をしている割合

母子世帯父子世帯
2011(平成23)27.7%37.4%
2016(平成28)29.8%45.5%

監護親が子どもと非監護親との面会交流に理不尽に抵抗している点について、監護親は配偶者である非監護親に対する思いと、子どもの非監護親に対する思いが、別であるかもしれないということへの想像が微塵も働かないほどに、親子の境界がなくなってしまっている状況が生まれる[出典3]。

日本では、特に連れ去り別居の場合など、その後ろめたさや、連れ戻されることへの不安から、面会をかたくなに拒否し、調停を始めても、「調停が行われているのだから、終わるまでは会わせられない」と、今度は手続きを口実に面会を先延ばしすることが行われる[出典4]。
ワラーシュタインの研究では、一方の親が家を出ていく前後の子どもの不安と混乱が心理学者の目で的確にとらえられている。恐怖、無力感、悲しみと和解幻想、親への心配、また、自らの見捨てられ観、親が子に慰めと同情、相手方非難への同意を求めることからくる忠誠の葛藤、そして親への怒りと、また小さな子の場合は、自分が離婚の原因と思ってしまい感じる罪の意識と、様々な感情が渦巻いている。また、種々の退行現象や心理的不適応も生じてくる。この混乱の時期に最大の力となるのは、親が子どもにとって変わらぬ愛着対象であり続けることの保障である。だからこそ面会交流は、別居とともに行わなければならない[出典4]。

子どもは両親の愛情を等しく受けて成長することが子どもの権利であるが、一方の親から強制的に引き離され、その後の関係を遮断されることで、成長するための一方の親との愛着形成が奪われている。先進諸国の科学的研究で明らかになっているように、そのような子どもは、片親疎外(※)の病気やうつ状態となったり、あるいは自己肯定感や自尊心が低くなり、時には自殺願望を抱くようになる。離婚家庭の子どもへの愛情遮断は、日本で問題となっている子どもの不登校や学校でのいじめ等を引き起こしている要因の一つだと言える。

※青木聡教授によると、片親疎外とは子どもが片方の親(多くの場合は監護親)の影響を受けて、正当な理由なく、もう片方の親(非監護親)との交流を拒絶する事態である。

※棚瀬一代教授によると、監護親と子どもの境界のない癒着した状態は、子どもの思いへの共感力の欠如であり、子どもの思いを自分の思いで支配し、子どもを監護親の思いに服従させてしまう行為である。これは、心理的虐待に該当する行為であり、片親疎外の病気である[出典3]。

青木聡教授は、面会交流の有無が子どもに与える影響、家族の現況が子どもに「自己肯定感」、「親和不全」を与える影響などについて、実証データを用いて定量的に分析している。
家族の現況、面会交流の有無が子どもの「自己肯定感」、「親和不全」に与える影響について下記のように述べている[出典1]。

  • 「親が離婚した家族」の子どもは「両親のそろっている家族」の子どもよりも、「自己肯定感」が低く、「親和不全」が高いことが明らかになった。
  • 「面会交流なし」の子どもは「両親のそろっている家族」の子ども、そして「面会交流あり」の子どもよりも、「自己肯定感」が低いことが明らかになった。
  • 「面会交流なし」の子どもは「両親のそろっている家族」の子どもよりも、「親和不全」が高いことが明らかになった。

「面会交流の有無と自己肯定感/親和不全の関連について」(青木聡(あおきあきら) 大正大学人間学部臨床心理学科教授)

出典2:「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」(厚生労働省)

出典3:「離婚で壊れる子供たち」(平成22年2月20日発行、光文社)(棚瀬一代 神戸親和女子大学客員教授)

出典4:自由と正義(平成21年12月)「両親の離婚と子どもの最善の利益」(棚瀬孝雄弁護士)

平成27年11月26日発売の女性セブンでも下記のような子どもへの影響が掲載されています。
Part3 子供の心のケア編

Part3 子供の心のケア編 「離婚でいちばん傷つくのは子供です」

 精神不安、学校中退、病気のリスクまで増える・・・小さな心はこんなに敏感!
 『見逃さないで!子供のSOSサイン』

 - 不安で落ち着きがなくなる
 - 眠れない・悪夢を見る
 - 過剰に甘え、赤ちゃん返りする
 - 急に親にやさしくなる
 - あまりしゃべらくなる
 - 自分を責める

一人親家庭の諸問題

日本では、離婚後の子どもの親権者の80%以上は母親となる。
社会問題化している一人親家庭の貧困問題は、親権者である母親が子育てのため就労に制約があり収入が低いこと、さらに非監護親からの養育費の支払いが不十分であったりすることなどが主な要因と考えられている。
離婚母子世帯のうち、子どもの父親から養育費を受取っているのは全体の24.3%である(厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」)。
平成23年と比較すると母子世帯で4.6%増加しているが、面会交流をしている割合も2.1%増加しており、離婚後の親子間交流の有無が、養育費の受給有無に影響していると言えよう。

養育費を受給している割合

母子世帯父子世帯
2011(平成23)19.7%4.1%
2016(平成28)24.3%3.2%

面会交流をしている割合

母子世帯父子世帯
2011(平成23)27.7%37.4%
2016(平成28)29.8%45.5%

養育費受給状況出典:「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」(厚生労働省)

一人親家庭の貧困問題は、子どもの進学や就職に影響を与えるだけでなく、経済格差の世代間継承につながっている[出典5]。

不登校の子どもがいる母子世帯は、ふたり親世帯の3倍を超えており[出典6]、母子世帯の子どもが短大・大学まで進学する機会は、ふたり親世帯の6割にとどまる。

このような貧困や、非監護親との関係断絶等を背景に、少年院に入所する少年の約半数はひとり親世帯の子どもで、母子世帯の少年は、4割を超えている[出典7]。
統計

平成27年4月8日に掲載された日経DUALの記事によると、「母子世帯からは通常の2.6倍、父子世帯からは約5倍の確率で非行少年が出ていることがわかります。片方の親の不在と非行がどう関連するかですが、生活の主要な場である家庭において、情緒安定機能が十分に果たされないことが原因だとよく言われています[出典8]。」と一人親家庭と子どもの非行との関連について客観的なデータに基づき記載されています。
画像の説明

出典5:「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査(「第1回子育て世帯全国調査」)」(2012年、独立行政法人・労働政策研究機構)

出典6:「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査」(2012年、独立行政法人・労働政策研究機構)

出典7:「貧困家庭と子育て支援」(岩田 美香 北海道大学准教授)

出典8:「日本の一人親世帯の「貧困率」世界でもトップ/「子どもが非行に走る確率」を家庭タイプ別に見てわかったこととは……」(日経DUAL 平成27年4月8日)

共同親権に向けた国会の議論

平成23年4月26日の衆議院法務委員会で、「民法等の一部を改正する法律案」が可決された際に共同親権・共同監護について以下の付帯決議が採択されました。

「親権制度については、今日の家族を取り巻く状況、本法施行後の状況等を踏まえ、協議離婚制度のあり方、親権の一部制限制度の創設や懲戒権のあり方、離婚後の共同親権・共同監護の可能性も含め、そのあり方全般について検討すること」

付帯決議が採択されてから8年が経過し、ようやく法務省は共同親権導入の是非を検討するために研究会を立ち上げると令和元年(2019)年9月27日に発表し、令和元年11月15日、家族法研究会の議論が始まりました。
また、令和3年2月10日に上川法務大臣が法制審議会に家族法制の見直しを諮問し、令和3年3月30日に法制審議会家族法制部会第1回会議が開催され、令和4年6月21日時点で16回の部会が開催されました。

2022-07-03 (日) 14:35:23
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