両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和3年7月17日、Japan In-depth

「日本の司法制度は子どもの権利を守ってくれない」ハンスト続けるヴィンセント・フィショ氏

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部(石田桃子、菅泰亮)

【まとめ】

・フィショ氏、子どもとの再会のためハンスト継続、7日目迎える。

・離婚・親権をめぐる日本の法制度に疑問を呈する。

フランス政府による日本政府に対する圧力を望む。

炎天下の千駄ヶ谷駅前(東京都渋谷区)。「拉致」の文字がはためくのぼりの下に、横たわる男性の姿がある。フランス人、ヴィンセント・フィショ氏。息子と娘との再会を果たすため、ハンガーストライキを続けている。今日で7日目だ。気温30度を越す猛暑の中、体力の消耗が激しいように見える。

■ ハンストのわけ

なぜ、フィショ氏はハンストを始めたのか。ことの発端は、2018年8月10日にさかのぼる。フィショ氏の妻が当時3歳と11か月の子供を連れて家を出たのだ。

妻の弁護士を通じて知らされた理由は、彼のDVだった。DVの事実は、後の裁判で否定され、妻もその主張を撤回している。にも関わらず、妻や裁判所は、彼と子供との面会を拒否し続けている。

「私は警察に4回行って、子供の誘拐を訴えたが、警察は私の訴えを拒否した。その代わりに、もし私が子供に会おうとすれば、誘拐未遂罪で逮捕すると言った。私はまだ親権を持っているのに」

そうフィショ氏は訴える。
3年近くもの間、彼は子供に会えていない。
「今では子供たちが生きているかどうかもわからない」
フィショ氏の決意は固い。
「子供たちを家へ連れて帰る」

そのためにフィショ氏は、ハンストを選んだ。

■ ハンストのメッセージ

私たちはフィショ氏に彼が最終的に何を望んでいるのか聞いた。

「私の望みは、フランス政府が、日本に対して子供の権利保護をするように求めること。そして日本がそれを断った時には強い制裁を課すことだ」

フィショ氏は、「日本の司法制度は子供の権利を守ってくれない」と非難する。

「日本は『児童の権利に関する条約』に1994年に批准した。27年も前だ。なのにそれを尊重しないことを続けている。クレイジーだ」

「児童の権利条約(児童の権利に関する条約)」は、子供の基本的人権を国際的に保障するため、 1989年に国連総会で採択された条約(1990年発効)。「子どもの最善の利益(子どもに関することが行われる時は、「その子どもにとって最もよいこと」を第一に考えます)」を原則の一つとしているほか、「児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する(9条1項)」などを定めている。

フィショ氏はこれまでも、似た境遇にある親たちと共に、日本における子供の権利侵害を国際社会に繰り返し訴えてきた。国連人権理事会、欧州議会、フランス・マクロン大統領は、彼らの訴えを受理し日本に対する抗議を行った。

フィショ氏によれば、2019年6月の面会時、マクロン大統領は「私たちの状況を「受け入れられない」と言って、支援すると表明してくれた」という。

このほか、日本に対する国際的な抗議は、参議院の調査報告(『立法と調査 2020. 9 No. 427)に、以下のように紹介されている。

「2019(平成31)年2月、国連の「児童の権利委員会」が、日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見において、「児童の最善の利益である場合に、外国籍の親も含めて児童の共同養育を認めるため、離婚後の親子関係について定めた法令を改正し、また、非同居親との人的な関係及び直接の接触を維持するための児童の権利が定期的に行使できることを確保する」ため、十分な人的資源、技術的資源及び財源に裏付けられたあらゆる必要な措置をとるよう日本に勧告した。これに対し政府は、勧告については真摯に受け止めているとしている。」

「2020(令和2)年7月、欧州議会は、加盟国の国籍をもつ人と日本人の結婚が破綻した場合などに、日本人の親が日本国内で子を一方的に連れ去るケースが相次いでいるとして、連れ去りを禁止する措置や共同親権を認める法整備などを求める決議を採択した。これに対し森法務大臣は、離婚に伴う子の連れ去りや親権制度をどうするかという問題は複雑だが、子の利益を最優先として、様々な意見に耳を傾けながら検討を進める旨発言している」

■ 日本の親権制度

「一方の親による子どもの連れ去り」の問題において、海外から非難を浴びる日本の法制度には、次のことが挙げられる。(参考:コリン・ジョーンズ「日本の法制度における離婚と親権の問題

1.「一方の親による子どもの連れ去り」の多くが犯罪と認定されないこと。

ある事例が、刑法224条に定められた「未成年者略取及び誘拐」の罪に当たるか否かの判断が警察によって行われる可能性がある。日本の警察には「民事」不介入の原則、特定の紛争が民事か否かを決める幅広い裁量権がある。

2.単独親権制度

婚姻中の父母は未成年の子に対して共同して親権を行使するが(民法第818条第1項、第3項)、離婚後は父母のどちらか一方が親権を行使することとなる(民法第819条第1項)。このように、離婚後に単独親権制度のみを認める国は、インドとトルコ。ほか主要先進国は、共同親権を認めている。

3.両親の離婚後の子どもの扱いについて法律がほとんど規定していないこと。

離婚の際の子どもに関する親権、監護権、面接交渉権の決定に関して、裁判所に課される法定の指針はない。日本の家庭裁判所の裁判官は非常に大きな裁量権を有しており、親権に関する外国の判決からは考えられないような決定を下す可能性がある。

4.調停の段階では、裁判所が「子どもの引き渡し命令」など暫定的な救済措置に消極的な場合があること。

離婚や親権について裁判所に持ち込む場合、まずは家庭裁判所の「調停」に参加する。調停では、裁判所は補助的な役割しか担うべきでないとされており、子どもにとって最善の利益であることが明らかな場合を除き、暫定的な救済措置(子どもの引き渡し命令など)の実施に消極的なこともある。

5.離婚調停が失敗し両親が提訴しない場合、監護権が裁判所の判断により決定されること。

親権に関する司法判断は一般的に、裁判離婚の成立時に裁判所が下す。離婚調停が失敗し、当事者のどちらも提訴しない場合、法律上は結婚したまま親権は双方が持ち続ける。ただし親権の監護権の部分(誰が子どもと同居し養育するか、面接交渉、養育費の支払い、一方の親に連れ去られた子どもを返還させるべきか)に関しては、調停が失敗すると、当事者が訴訟を起さなくても裁判所が自動的に審判の手続きに入る。

■ 日本への失望感

国際的な抗議にも関わらず、日本には改善の気配がない。フィショ氏は失望感を露わにした。

「日本の機関や日本政府が誠意を持って行動しているとは思えない。日本の司法制度や日本政府には全く期待していないし、信用もしていない」

「日本は人権を理解せず、「法の支配」を尊重していないのは明らかだ。なぜなら、日本は国際条約に調印していて、フランスが礼儀正しく外交的に、日本にそれを尊重するよう要請しても日本は協力を拒んでいる」

フィショ氏によれば、フランス当局は、彼の妻の弁護士を通して子供たちとの接触を試みたが、拒否されたという。さらにフランス当局は、日本当局に対して、子供たちの安否を確認するよう求める要請も行ったが、拒否された、と述べた。

「私は、フランスの法律を日本に押し付けようとしているわけではない。日本の司法に求めることは、日本の法律と、国際法と法の支配を尊重するようになってほしいということだ」

「子供たちを取り戻すか、さもなくばここで死ぬ。父として、私の責任 は、持てるものすべてを子供たちに与えること。子供を守ることは、親の権利ではなくて義務なのだ」

「私は最後までここにいるつもりだ」

■ 支援キャンペーン

オンライン署名サイトのChange.orgはフィショ氏の賛同者を求めるキャンペーン「【賛同者募集】 ヴィンセント[ヴァンサン]・フィショと2018年8月10日に日本で不当に誘拐された彼の子供たちとの再会のために)」を実施中だ。

同サイトにおける要求は以下の通り。(翻訳ソフトDeePLによる。正確には上記サイトの原文:仏語を参照のこと)

・私たちは、フランス共和国大統領および政府に対し、人権および国際条約の尊重を定めた日欧戦略的パートナーシップ協定の第2条に違反しているとして、フランスの同協定への加盟を直ちに停止するよう要請します。

・また、日本の親に拉致された子供たちの事件を、フランスが国際司法裁判所に直ちに提訴することを求めます。

・最後に、私たちは、フランスがこの問題に関して同意していないことを証明するために、駐日大使を呼び戻すことを求めます。

アクセス数
総計:765 今日:1 昨日:1

powered by Quick Homepage Maker 5.2
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional