両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成30年3月30日、朝日新聞2

私の気持ち=子どもの気持ち?「会わせたくなかった」母親の葛藤

 将来の見通しがないまま離婚してしまったことで、様々なトラブルが生まれるケースが増えています。専門家は日本の「家制度」がもたらす「離婚は世間にさらすべきではない」という考えが強く働いていると指摘します。子どもを巡って十分な話し合いがないまま離婚に踏み切った女性は「私の気持ち=子どもの気持ち」という考えにとらわれていたと告白します。離婚をとりまく「呪縛」について話を聞きました。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子)

同居親の顔色をうかがう子ども
 2017年に厚生労働省がまとめた調査によると、別居している親が子どもと会う「面会交流」が現在も行われている父親は約30%。過去に行ったことがあるという父親を含めると、未成年の子どもを持つ別居の父親の3人に2人が、現在我が子に会えていないことになります。
 共同養育コンサルタントとして、別居中や離婚後の父母の相談を受けているしばはし聡子さんは、面会交流に後ろ向きだった母親としての経験もあります。
 「まず相手と関わりたくないという気持ちが大きかったんです。離婚したら二度と関わらない他人になれると思っていたし、面会交流でやりとりが発生することに離婚の渦中は気づきもしませんでした。
 親同士の関係が続くことへの心の準備が全くできていなかったので、とにかく夫を避けることしか考えていませんでした」

 厚生労働省の調査によると、面会交流について夫婦間で取り決めをしていない理由としては「相手と関わり合いたくない」「相手が面会交流を希望していない」などが多いです。一方、「子どもが会いたがらない」という回答も一定数あります。
 しばはしさんは、別居している親に「会いたくない」という子どもの心理についても指摘します。
 「子どもは年齢に限らず、同居する親の顔色を非常によく見ています。子どもも生きていかなければならないので、同居親が悲しむことや機嫌が悪くなることはしてはいけないと思って言葉を選ぶ場合があります」(しばはしさん)
 離婚後の子どもの心理に詳しい大正大学の青木聡教授は「同居する親が無自覚的に出している、元配偶者に対する嫌悪感や恐怖感を子どもが汲む形で、面会を拒絶するケースが多い」と話します。
 「別居当初は、忠誠葛藤と呼ばれるお父さんもお母さんも好きで会いたいという感情に苦しむことになります。その苦しみが深ければ深いほど、苦しみを切り捨てて『親と会いたいと思っていない自分』に同一化していくんです」(青木教授)

「私の気持ち=子どもの気持ちと思っていた」
 しばはしさんは離婚に関する問題について勉強し、相談を受けるようになった頃、自身が面会交流の問題を乗り越えられていないことに気付きます。そこで、面会交流の支援団体にボランティアとして参加することにしました。
 「子どもの受け渡しの場所に現れたのは、能面のように怒った顔をした母親でした」
 子どもを預かり、父親のもとに連れて行くと、おとなしかった子どもははじけるような笑顔で父親に抱きついたといいます。子どもが父母の間で態度を使い分けているという現実を目の当たりにしました。
 「私は今までずっと父親と子どもの関係の邪魔をしていたんだ、と。私の気持ち=子どもの気持ちと思っている部分がありました。他の家庭を見ることで気付くことができました」
 その日のうちに、面会交流について元夫に連絡をしたというしばはしさん。
 「これまでの態度を非難されるかもしれない」--しかし、元夫から帰ってきた言葉は「ありがとう」でした。
 面会交流に前向きになってから元夫との関係もよくなったと言います。息子との会話でも父親の話題も出るようになりました。
 「それまで逃げると追われるで、離婚したのにずっとその呪縛から逃れられていない気がしていました。もっと早く乗り越えていればよかった。
私自身が面会交流に後ろ向きな気持ちも理解できるので、相談に来た方には頭ごなしに『絶対面会交流するべき』と言うのではなく、『離婚しても、親子の関係は変わらない、親同士の関係も続く。夫婦と親子を切り離して考えていこう』ということを伝えていっています」

協議離婚「子どもにとって無責任な制度」
 離婚は「夫婦間」の問題と思われがちですが、それは日本の制度にも関係しています。
 日本の離婚のおよそ9割を占める「協議離婚」。夫婦間の話し合いで離婚の合意が得られた場合、離婚届を役所が受理すれば成立します。
 家族法に詳しい早稲田大学の棚村政行教授は「もともと日本は家制度によって、離婚はプライベートな問題として、世間にさらすべきではないと考えられてきた」と指摘します。
 「家族の問題を家の中に押し込んだ結果、協議離婚は十分な話し合いや将来の見通しができないまま離婚できる、子どもに対しては無責任な制度になってしまったんです」
 2012年4月施行の改正民法により、離婚の際には「子どもの利益を最優先に考えて、養育費及び面会交流について協議する」旨の規定が組み込まれました。
 離婚届にも養育費と面会交流について夫婦間で取り決めが行われたかを問うチェック欄が設けられていますが、取り決めの有無が離婚の成立に影響することはありません。
 実際、2017年に発表した厚生労働省の調査では、元配偶者と面会交流の取り決めをしていると回答した割合は、父子世帯・母子世帯ともに3割を切っています。

親子関係、子どもが成人すれば終わるものではない
 子どもへの配慮は、年齢や発達状態、それまでの親子関係によっても変わってきます。もちろん、DVの有無が問われる場合は、特に個別に判断される必要があります。
 ただDVへの対応についても、青木教授は「日本は後進国中の後進国」と指摘します。
 「日本の場合、DVの被害者は逃げるしかありません。刑事的に扱うというのが当然だと思うのですが、加害者を野放しにしてしまっています」
 一方、「DVの一言で片付けてしまっている側面もある」といいます。
 「アメリカなどではDVを5~6種類に分類して、その内容によって面会交流の可否や制限を定めています。それも監護評価者がチェック項目やフローチャートを使えば判断できるほど、議論が進んでいるのです」

 青木教授は離婚を考える夫婦に「子どもを守ることを一番に考えて」といいます。
 とはいえ、離婚した夫婦の間のこと、お互いに子育てに協力し合うのは簡単なことではありません。関わりたくない元配偶者に子どもを会わせること、たまにしか会わせてもらえない子どもに養育費を払い続けること、いずれも無理をしていては長続きしないものとなってしまいます。
 「でも、そんなことを言っていたら、子どもが置き去りになってしまいます」
 親子関係は子どもが成人すれば終わるものではありません。自分や元配偶者が再婚することになったら、子どもに孫が産まれたら……一緒に住んでいなくてもそのときそのときで、子どもと向き合い続ける必要があります。
 「子どもに影響を与えるのは離婚そのものではなく、両親の争いや、突然の別れです。子どもの人生をもっと長いスパンで、親としてどう支え、守っていくのかという公平な観点が当事者にも支援者にも必要です」

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