両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成28年4月1日、アゴラ

母が連れ去った娘を父が取り戻す判決の衝撃(八幡 和郎)

母が家を出てしばらくしてから、父と暮らしていた娘を一方的に連れ去り、父の面会を拒絶していたケースで、娘の親権を父に認める画期的な判決が千葉地裁で出された。事件から六年の年月が経過していた。

日本の場合、家庭裁判所はほとんどの場合、母親に親権を認めるし、面会権を父親に認めても反故にされるケースが多い。郷ひろみの例など典型だ。子供が嫌がっているとか、母子関係に悪影響が出るとかいうことが理由にされるが、そんなことは、母親が誘導すればさほど難しくない。

また、面会が認められても、第三者の同席が義務づけられ、それが安易に父親の言動やプレゼントすることを制限したりしている国際的に非常識極まるやり方をすることが多いのが現状である。

かつて日本では、跡取りの子の場合には、その家、つまり、婿養子でなければ父のもとに残させるのが普通であったが、跡取りでない場合には様々だった。そして、片方の親は一生会えないことが多かった。

安倍首相の父である晋太郎元外相は、幼いころに母が家を出たがその後の消息を教えてもらえず、学生時代に母が住んでいるとうわさで聞いたあたりを捜し歩き、のちに異母弟の西村興銀頭取と涙の対面をしている。また、小泉首相が離婚したとき長男と次男は父のもとに残り、三男は離婚後に出産して母のもとで育ち、互いに長年、会わなかった。

こうした習慣は、国際的にもグロテスクの極致である。ヨーロッパ在勤時に北イタリアの湖水地方のホテルで、父親と幼い娘がバカンスを過ごしているのに出会ったことがある。離婚して娘が母親のところにいるが一年のうちある期間、父親と過ごしているということで印象的だった。

欧米では離婚しても片方の親と会えないなどということは少ない。オバマ大統領も離婚したケニア人の父が小学生のころハワイに訪ねてきてかなりの期間一緒に過ごしたりしている。両親それぞれが一人ずつ引き取ったとしても、互いに会えないないということなどない。

ところが、日本人がアメリカで離婚してたのち、勝手に日本人の母親が日本に連れ帰る事件が頻発し、それでは北朝鮮の拉致も非難できないなどと批判され、それが国際的なルールとして違法に外国に連れ出された子を取り戻せるハーグ条約批准のきっかけにもなった。

そういう問題意識の変化の結果出たのが今回の判決である。この事件の当事者である父親は、ハーグ条約批准運動にも参加していたが、そこまでしないと日本人の意識が変わらないと正しく考えたからだ。

今回の判決では、母の方は夫に第三者の監視付きという条件で月に一回の面会を認めると妥協案を提案し、父は百日間の無条件での面会を母に認める提案をした。妻は夫に会わせることで不都合が生じると言い張ったが、その理由を論理的に説明できなかった。

日本でも離婚率が30%を超えているが、そういうなかで、離婚したら片方の親は会えなくなるというのでは、正常な親子関係形成の支障になるし、それが少子化の一因のようにすら思う。

欧米人の家庭に招かれると、三人子供がいて似てないので不審に思っていると、「この子は私の子、そしらは夫の子、あっちが二人の子」だとか、「この子は妻の前の結婚のときの子で父親のところにいるのだが、夏休みなんでこっちに来ている」とか子供の前で平気で言っているし、それが国際標準だ。

離婚すると片方の親と会えなくなるというのは、文明国にあるまじき蛮行だ。この案件については、わたし自身も相談にのったこともあるのだが、これを機会に国際的な常識に合致した親子関係に変化することを切に望みたいし、この判決のケースをその模範としようと両親が努力してくれれば素晴らしいことだし、子供にとっても誇らしいこととなろう。

さらにもう少し広く考えると、祖父母の面会権などというのも大事なことと思う。男親の祖父母が、「もしも子供が離婚したら会えなくなるかと思うと孫を可愛がる気になれない」という話もよく聞くが、不幸なことだ。オバマ大統領もケニアの祖母に上院議員時代に会いに行ったではないか。

八幡 和郎 氏
評論家、歴史作家、徳島文理大学大学院教授
滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。通産省大臣官房法令審査委員、通商政策局北西アジア課長、官房情報管理課長などを歴任し、1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書に『歴代総理の通信簿』(PHP文庫)『地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図』(文春新書)『吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり』(宝島SUGOI文庫)など多数。

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