両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成24年12月24日、読売新聞

実子“誘拐”相次ぐ~子の幸せ考え法整備を

 父親が実の子を“誘拐”する事件が今年、県内で相次いだ。「子育ては母親」という考え方が根強い日本では、離婚すると大半のケースで母親が親権を取っており、子どもに会わせてもらえなくなった父親が実力で奪い返した、というのが事件のいきさつだ。父親が育児に関わることも多くなった今、親権制度は矛盾をはらんできている。
 「法に違反するのは分かっていたが、どうしても娘に会いたかった」
 6月、地裁の証言台。白髪交じりの長身の男が、背中を丸め、声を震わせた。
 罪状は、未成年者略取。男は横浜市内の62歳。起訴状などによると、男は今年1月、東温市立小学校の正門前で、登校中の小学1年生だった長女を抱きかかえて車に乗せ、20日間近く連れ回した。
 この日の公判で、検察官に動機を問われ、「妻から娘との面会を拒否されるようになった」と述べた。元妻は長女を連れて家を出て、その後、離婚が成立し、男は親権を失った。
 別の日の公判では、〈お父さんは優しかった。お巡りさんに連れて行かれたので、いけないことをしているんだなと思った〉と、長女の供述調書が読み上げられ、男は涙をこぼした。
 男には懲役1年6月の判決が言い渡された。
 連れ去りには、男がインターネットで知り合った関東の男も共犯として逮捕された。この男も子どもに会えない事情があり、協力したとみられる。

 10月には松山市内の路上で、市内の無職男(68)が、親権のない1歳男児を連れ去ったとして、未成年者略取罪で起訴された。現在公判中だ。
 日本のように、離婚後に親権が一方の親だけに帰属することを「単独親権制度」と呼ぶ。親権のない父親が無断で母親から子どもを連れ出すのは未成年者略取罪にあたる。
 親が実子を連れ去る事件は全国で相次いでいる。警察庁によると、親による誘拐事件などは2011年に20件。00年は7件で、約10年で3倍になった計算となる。
 夫婦間の子どもを巡る争いも増えた。厚生労働省によると、11年の離婚件数は23万5719件で、うち6割に未成年の子どもがいる。司法統計年報によると、11年の子どもとの面会交流申し立ては7965件で、00年の3・7倍だ。
 親権争いは、実際に子どもと住む親が有利で、離婚前から子どもを連れて別居している方が親権を得られることが多い。「連れ出たもの勝ち」ともなる。
 制度は社会と合わなくなっている。早稲田大学法学学術院の棚村政行教授(家族法)は「男は仕事、女は家庭、という役割がはっきりしていた頃は、離婚すると女性が子どもを引き取るのが自然と考えられ、単独親権制度が通用した。少子化、共働きが進んだ今は男性が育児に積極的になり、離婚後も子どもと関わりたいという人が男女ともに増え、制度は問題となってきた」と指摘する。
 欧米などで採用されているのは、父母ともに子どもを育てる権利がある「共同親権制度」。この場合、親が子どもを連れて別居すると、連れ去り事件とみなされ誘拐罪などに問われることがあり、日本とは対象的だ。欧米では1970年頃から父親の親権を求める運動が活発化し、共同親権が主流になった。
 もちろん、単独親権制度にもメリットはある。片方の親の家庭内暴力(DV)から逃れることができることなどだ。
 棚村教授は「離婚しても両親で子どもに責任を負うという共同親権の理念は大切だ。DVなどの事情によっては単独親権を選択できる余地を残しながら、制度を見直すべきだ」と主張する。
 親権制度を考えるには、親の事情だけでなく、子どもの成長や幸せを十分に考慮し、法整備を進める必要がある。子どもの奪い合いで最も傷付くのは、子どもだからだ。(梅本寛之)

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