寄稿SeasonⅩ ②
Season 10「クレイマー以後」考②
━アメリカの著名な精神科医であるフランク・ウィリアムスは、両親の離婚後に子どもが置かれた状況を嘆いて、こう語った。
「今では麻酔なしに子どもから盲腸を切り取ることなど、およそ考えられないことです。ところが、わたしたちは日々、麻酔なしに子どもから片親を切り取っているのです」
(中略)子どもに全く傷を残さずに離婚することは不可能だ。いやそれどころか多くの場合、離婚は子どもにとって長く尾を引く外傷的体験である。
棚瀬一代さんの『「クレイマー、クレイマー」以後~別れたあとの共同子育て』(1989年初版発行、筑摩書房)は、全米に先駆けて「共同子育て(ジョイント・カスタディ)」法を施行したカリフォルニア州を舞台にしたルポルタージュです。「離婚を失敗に終わらせない」ためのさまざまな共同子育ての試みに分け入った最前線からの報告でした。
棚瀬さんは1984年夏から1985年夏にかけ、バークレー郊外の小さな町で暮らしました。暮らし始めてしばらくすると、娘の幼稚園や息子の中学校などで、共同子育てをしている何組かの離婚カップルに出会ったそうです。棚瀬さんは「離婚せざるを得ないほど、うまくいかなかった夫婦が、別れた後によく共同で子育てなどできるな…怒りや憎しみ、恨みといった感情は一体どうなっているんだろう?」と強く好奇心をそそられます。
こうして始めたインタビューを基に、結婚、その破局としての離婚、その後のシングル・ライフや再婚といった人生ドラマを背景に、共同子育ての現場を描き出しました。
━親は永遠に親、離婚は夫婦の離縁であって親と子の離縁ではないという共同子育ての基礎にある考えは、日本でも増え続けるであろう子どもを持つ夫婦の離婚戦争の中で、見失ってはならない視点であると思う。
現に日本でも、数少ないながら離婚後に共同子育てをしているカップルがいると聞く。(中略)こうした人たちのパイオニア的生き方が、やがて周りの人たちの意識を変え、社会全体を動かしていく力となるものと私は確信している。
【気弱なジャーナリスト・Masa】
更新 2023-05-08 (月) 06:53:32
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