令和4年11月2日、日本経済新聞
戦後民法の親権制度に欠陥
ITコンサルタント 松村直人
9月27日の本欄に「離婚後(実質的には別居後)の単独親権」を巡る問題が掲載された。これと密接に関係する「婚姻中共同親権の制度欠陥」について説明したい。
そもそも私たち国民はどの程度「婚姻中共同親権」を意識しているだろうか。民法818条3項は「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う」と定めており、婚姻中は父母が共同で子育ての意思決定をする必要がある。しかし、父母の考え方が異なる場合の規定が無い。円満な夫婦でも受験やワクチン接種などで考えが異なる場合、意思決定が不能になるのだ。この解消手段の1つが「子の連れ去り」という乱暴な実力行使であり、家庭裁判所が「監護者の指定」手続きにより「別居後単独親権」を事実上作り出している。
このような意思決定のデッドロックを避けるため、企業は通常1対1の出資比率を避ける。また共同親権を採用している各国は、父母の意見が対立した際の調整規定を設けている。具体的には裁判所がどちらかの親に決定権を与えるか、裁判所がその内容を決定するか、いずれかの方法だ。つまり、日本の婚姻中共同親権は対等な父母の最終意思決定方法を欠くという重大な欠陥を抱えている。
実は、父母の意見が不一致の場合の調整規定が無い問題は、戦後1947年に民法が改正された当時から指摘されていた。ただ当時は父親が意思決定する時代だったため、立法者は課題を認識しながらも何の手当てもしなかった。その後も民法学者が繰り返し指摘してきたものの、放置されてきた。
博報堂生活総合研究所の「家族30年変化」調査によれば、家庭の総合的決定権を持つのは、1988年に夫72%、夫婦同等16%、妻10%だったが、2018年には夫39%、夫婦同等31%、妻30%に変わっている。過去30年で家庭内の意思決定は夫優位から夫婦対等に大きく変容した。そして家庭の重要な役割として子育てがあり、その意思決定方法を規定するのが親権制度である。父母対等な現代家庭を支えるには、意見調整機能を備えた真の共同親権が必要だ。
私はこの共同親権の意見調整機能不備の立法不作為を問う国家賠償請求訴訟を起こしており、12月に控訴審判決が予定されている。
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