両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成28年3月4日、日本経済新聞

「イクメン」増えても…親権不平等の国・日本 ジェンダーと男性差別

 「シングルマザー」という言葉は、現在はパートナーと離婚、死別、あるいは未婚のまま子どもを育てている女性を指すときに使われています。

 しかし、そもそも「死別」以外のケースでは「シングルマザー」など存在しないでしょう。子どもには父親が存在するからです。

 ところが実際には、離婚時に親権を得るのは圧倒的に母親です。その根本にあるのは、子どもは母親の所有物という思想、「母性優先の原則」です。この親権の問題ほど男性への差別が露骨に表れる事例はなく、先進各国は父親たちが戦って法律を変え、共同親権を得てきました。

 しかし日本はいまだに、先進国の中でもひときわ遅れた状態です。現在、政策として男性の育児休暇取得や育児支援が進められており、これは当然良い方向ではありますが、これだけでは司法の不平等は消えていきません。

■「養育費を払う父親は20%」 しかしその実態は

 日本では、離婚した父親が養育費を払っている比率が非常に低い(20%ほど)といわれます。母子家庭の貧困率は50%超と先進国の中では圧倒的に高く、大きな問題とされています。

 しかし一方で、離婚において父親の人権が非常に軽視されてきたという現状は見過ごせません。離婚したケースの多くで、母親が子どもと父親の交流を妨害したり、面会交流権を守らないという現実があります。

 浮気したのでも、暴力をふるったわけでもない父親が、離婚したというだけで子どもとの交流権やアクセス権を奪われる、欧米ではありえないようなことがこれまでは黙認されてきました。面会交流権、最低でも隔週土日は子どもを父親の元で過ごさせるという約束を守らない母親が、養育費だけは求めるというのは正当な要求ではありません。養育費が本当に子どものために使用されているか、子どもの安否すら確認できないなら、養育費を払わない父親が増えるのも当たり前です。

 米国では子どもが両方の親と交流する権利を守ることと、養育費を払うことはセットの義務であり、この両方についてそれぞれ司法が判断します。つまり、面会交流権や訪問権(ほぼ年間100日)を守らない場合、養育費などもらえないどころか、普通に親権を失い、相手に親権が移ります。

 また、メーンの親権を失って養育費を支払う立場になった場合、養育費を払っている比率は父親のほうが圧倒的に高いのです(これは日本も欧米も同じです)。離婚後、子どもと父親が同居している場合、別居している母親が養育費を払っているパターンはかなり少数です。しかも大抵のシングルファーザーには養育費どころか、父子手当すら日本では2010年までまともに制度化されていませんでした。

■「親権における男性差別」は子どもへの虐待を生む

 離婚した母親が子どもを父親に会わせない、もしくは共同親権を渋る理由とは何なのでしょうか。実際には、単に元夫が嫌いなので自分が会わせたくない、もしくは面倒だからという理由が多いようです。欧米ではこのような親に親権がいかないように、フレンドリーペアレントルールなどを採用しています。離婚した後、子どもをもう一人の親に会わせる傾向がより高い親にメーンの親権を与えるというものです。

 日本の法廷は父親がどれだけ育児をしようとも、さらに言えば浮気やDVもなく、子どもへの愛情のために働いていても、子どもと会う権利(アクセス権)を多くの父親から奪ってきたのです。欧米で、性差別だとして男性たちが最も強く改善のために戦い、そして現実に法律を変えてきたのがこの離婚時の父親差別でした。

 繰り返しますが、離婚後、自分と仲が悪いからという理由で子どもをもう一人の親に会わせないのは人権侵害、児童虐待にあたります。実際、この点がおろそかにされてきたため、日本はハーグ条約の締結を巡って世界中の男女平等先進国から批判されることになったのです。

 ハーグ条約は正式には「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」といいます。離婚した夫婦の一方が子を連れて国境を越えて移動し、もう一方の親が子に面会できなくなる、いわゆる国際的連れ去り問題に関する国際協力の仕組みを取り決めたもので、日本が締結したのはG8加盟国でもっとも遅く14年です。

 日本が関係した国際連れ去り事件では、母親による連れ去りを正当化するために虚偽のDVをでっちあげたケースもありました。日本での「慣習」となっている「離婚したら親権は母親が独占して当たり前」という差別行為を欧米でやって犯罪者として捕まったのです。

 もちろん、事態は少しずつ改善に向かっています。離婚時の面会交流権の義務化(こんなものは当たり前ですが)は日本でもようやく進んできました。

 時折報道される痛ましいニュースに、離婚した母親の子どもが、母親の恋人や新しい夫に虐待されるケースがあります。当然のことですが、離婚後も子どもが両方の実の親と交流がある方が、児童虐待は防げます。もう一方の親が虐待の可能性を察知できるからです。

 10年に法改正された父子家庭への支援も、父子家庭の父親たちが声を上げてきたからこそ実現されました。共同親権に賛成するフェミニストも大勢いましたが、どちらかといえば自分たちに有利な性差別に関しては見ぬふりをするという傾向は欧米も日本もあまり変わりません。だからこそ、男性自らが声を上げていくことが重要なのです。

久米泰介(くめ・たいすけ)
 翻訳家、男性問題研究者。1986年、愛知県生まれ。米ウィスコンシン大学スタウト校で家族学修士。訳書に『男性権力の神話』(ワレン・ファレル著、作品社)など。

アクセス数
総計:1936 今日:1 昨日:0

powered by Quick Homepage Maker 5.2
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional