両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成28年1月28日、静岡新聞

「わが子」に会いたい~離婚と面会交流(1)裁判勝っても保障なく

 親が離婚した未成年の子は全国で22万人を超える(2014年、厚生労働省調べ)。別居する親子が定期的に会う「面会交流」は11年に改正した民法で初めて明文化され、子の利益を最優先に協議するように促しているが、14年の日本弁護士連合会(日弁連)調査では、子と別居している親の4割が面会できていないことが明らかになった。親子がなぜ会えないのか。課題を追った。
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 静岡県内に住む幸二さん=40代、仮名=は、街で家族連れを見るのがつらい。元妻が離婚前に実家に連れ帰ったまま、2年間会えずにいる小学生の息子を思い出すからだ。「なぜ自分だけこうなってしまったんだろう」
 息子と会話したのは、離婚調停中の「面会交流」が最後だった。肌寒い日、待ち合わせ場所の公園の入り口に15分前に着き、「会わない間に嫌われていないかな」とどきどきしながら待った。心配をよそに、息子は「パパ!」と全力で駆け寄ってきた。鬼ごっこやボール投げといったいつもの遊びに、息子は歓声を上げた。幸二さんは同居中に風呂で遊んだことや、送迎をした車内でのたわいない会話を思い出し、胸が熱くなった。
 「次も会おうね」という父子の約束は、かなわなかった。離婚成立から少したち、次回の日程調整を求めるメールを元妻に送ったが、連絡が途絶えた。親権を譲った直後の「強行」だった。
 静岡家裁に面会交流を求める調停を起こしたが、不成立になった。審判に移行して「月に1回、市内で2時間程度面会をする」と念願の決定を受けたが、元妻は不服として東京高裁に抗告。高裁が棄却すると、さらに特別抗告をした。高裁は退け、幸二さんの勝訴が確定した。それでも元妻は、息子を会わせようとしない。
 決定確定後、同居の親が面会に応じない場合は金銭を求める間接強制という手段がある。しかし幸二さんには、元妻に送った養育費の一部が“罰金”名目で返ってくるだけに思える。「裁判に勝ち続けても、願いはかなわない。仕事を休んで法廷闘争に時間を費やす間、息子は成長していってしまう」
 養育者を自分に変更するよう請求することもできるが、幸二さんは転校など息子の負担を考えるとためらってしまう。「面会交流」が離婚時の協議事項として改正民法に明文化され、夫婦の感情的な対立とは別に、子の視点から検討するよう求めた意義は大きい。しかし、別居する親子が会える保障はない。幸二さんのように裁判を通じて取り決めても、守らない親への強制力はなく、課題は残ったままだ。面会交流問題に詳しい馬場陽弁護士=名古屋大法科大学院非常勤講師=は「現状では子どもの利益を守れない」と警鐘を鳴らす。
 忘れられるのが怖くて、幸二さんは昨秋、息子の運動会に行った。一瞬目が合った息子に顔を背けられ、「嫌われている」と感じた。愛情を直接伝えるチャンスがないまま、年があけた。「打つ手なし」の絶望的な状況は疲弊を招き、最近は「面会を諦めれば、自分が前に進むことができる」とさえ思い始めた。

 <メモ>面会交流 面会交流は過去に面接交渉と呼ばれ、50年以上の歴史がある。基本的には両親間の協議に任されているが、協議離婚ではなく、裁判所での調停や審判、訴訟では、面会交流について具体的な頻度や場所を決めることが多い。厚労省によると、現在、親権は8割が母親であり、離別親は圧倒的に父親が多い。2014年、県内の離婚件数は6400件。離婚件数は減少傾向にある一方、静岡家裁によると、面会交流を求める調停の申立件数は県内で340件で、10年前の倍以上だった。増加の背景には、男性の育児に対する意識の高まりがあるとみられる。

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