両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成27年4月3日、産経新聞

ハーグ条約1年 子供を守る慎重な運用を

 国際結婚の破綻などで、一方の親に国境を越えて無断で連れ去られた子供の扱いを定めたハーグ条約が日本で発効して1年が経過した。

 この間、外務省が受け付けた子供の返還や面会を求める申請は100件を超えた。いまのところ大きな混乱もなく対処されている。

 ただ、日本では親権制度の違いなどから加盟に慎重論を唱えた経緯があった。家庭の問題がからみ返還の可否を決める裁判なども原則非公開で行われるため、課題がみえにくい。引き続き子供を保護する条約の目的にかなうよう、注意深い運用を求めたい。

 条約加盟国は、16歳未満の子供を一方の親が無断で国外に連れ去った場合、子供を捜し、元の居住国に戻す義務を負う。親の国籍を問わず、どちらが養育するかなどは、元の居住国で決められる。

 この1年間の申請のうち、子供の返還を求めたものは44件で、親同士の合意に基づいた外国への返還が3件、日本への返還は裁判所の命令などで4件実現した。その他、裁判所での審理に入ったものもあり、そのすべてが子供の利益に結びつくのか、必ずしも楽観はできまい。

 過去、日本人の場合は外国人の夫の家庭内暴力(DV)から逃れて子供とともに帰国したケースも少なくなかった。別の加盟国では、条約に沿って子供を戻した後、先方に養育能力がないことが発覚し問題化したこともある。

 条約では、子供に危害などが及ぶ恐れがある場合、返還拒否が認められている。将来に禍根を残さないよう、話し合いや裁判の調停では十分な情報と証拠に基づいて慎重に吟味してほしい。

 外務省は条約加盟に伴い、主要在外公館での邦人のDV被害者支援を強化した。子供を連れて帰国したものの、証拠の不備などで裁判で不利になることがないようにとの配慮だ。多くの相談が寄せられているという。

 外務省が受け付けた返還と面会の申請113件の約1割は日本人同士のケースだった。海外での勤務や居住が珍しくなくなった現在、条約の対象となるのは国際結婚の夫婦とは限らない。

 国際化が進む中、条約が適用されるケースは今後も増えよう。予想されるトラブルに備え、国は必要かつ適切な支援の手も差し伸べてもらいたい。

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