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平成27年1月、Business Journal

深刻な裁判所の劣化 裁判官の猥褻&パワハラ行為、和解強要や被害者恫喝…広がる司法不信

 昨年12月14日、衆議院議員総選挙の投票と同時に、国民が最高裁判所裁判官を審査する国民審査投票が行われた。この国民審査とは、権力を監視し法を司る最高裁の裁判官として適切な人物かどうかを国民が審査する制度で、審査対象の裁判官の氏名が記載された投票用紙に、罷免を望む人物がいれば×印を記入して投票する。有効投票のうち過半数が罷免を望まない限り罷免されず、一度審査を受けて罷免されなければ、その後10年は審査を受けることがない。

 一般論として、衆院選の際は選挙にばかり報道も国民の関心も向かってしまう。その上、任命されてから最初の衆院選で国民審査を受けることから、最高裁裁判官としてのキャリアも短いため、判断材料も少なく、裁判官の実績や人物像が十分に把握されていない。このような状況で、国民の大多数が罷免を望むということは考えにくい。従って、この罷免率(罷免を可とする票の割合)は低いことが常であり、この制度は形骸化していると指摘されることが多くなっている。

●司法への不信が深刻化

 最近の国民審査での罷免率は、2005年は平均7.8%(対象は6名)、09年は6.7%(対象は9名)だったが、12年には平均8.1%(対象は10名)にまで上昇していた。その罷免率が、先月の衆院選の際の国民審査では、平均9.2%(対象は5名)にまで高まっていることがわかった。ちなみに、各対象裁判官の罷免率の詳細は以下の通りである。

【14年12月 国民審査罷免率一覧 罷免率の高い順】
木内道祥(弁護士出身):罷免率 9.57%
池上政幸(検察官出身):罷免率 9.56%
山崎敏充(裁判官出身):罷免率 9.42%
鬼丸かおる(弁護士出身):罷免率 9.21%
山本庸幸(行政官出身):罷免率 8.42%
※罷免率は、有効投票数約4600万票の中で×を投じた票の割合を元に計算

 今回罷免率が全体的に高まったのは、投票率が低く、投票したのは問題意識の高い層が多かったためという要因も考えられ、加えて最高裁を中心に裁判所全体の問題ある実態が明らかとなり、司法への不信が日本中に広まっていることも挙げられるだろう。

 昨今、民事では裁判官が裁判を早く終わらせるために和解を強要する事件や、裁判官が原告や被告の一方の主張のみを判決文に写し書き、裁判を終わらせる事件が多発している。また刑事では、検察や警察の主張を無理やりに追認するような内容の判決が多発し、冤罪の疑いの強い事件が多く指摘されている。

 また昨年には、最高裁で長く勤務し、その内部を知り尽くす元裁判官の瀬木比呂志明治大学法科大学院専任教授が、最高裁の実態を克明に描いた書籍『絶望の裁判所』(講談社新書)を出版した。同書では、裁判官の倫理観が欠如している実態や、裁判官の能力が低下している実態が克明に描かれている。裁判所内部では、最高裁を中心に、裁判官は多くの裁判を処理することが求められており、その作業に専念するのに伴って良心や良識が失われていき、和解を強要したり恫喝してでも裁判を多く処理する裁判官が出世する実態になっているという。さらに同書では、裁判官によるパワハラや猥褻行為が内部では多発している様子が告発され、長くベストセラーとなり大きな反響を呼んでいる。
(参考:14年6月2日付当サイト記事『裁判官による性犯罪、なぜ多発?被害者を恫喝、和解を強要…絶望の裁判所の実態』、6月4日付『冤罪を免れるのは困難、中身を見ず和解を強要…裁判所の病理を元裁判官が告発』)

 このように、裁判所の問題が多く指摘されたことで、司法への不信が高まっているという事情があるのではないだろうか。

●山本氏の罷免率が低い理由

 最高裁は現在、選挙における一票の格差の問題について、「違法状態にあるが選挙は有効」とする判断を続けている。このように選挙を無効とはしないために、今回の衆院選でも比例代表の得票率は、自民党が33.1%、公明が13.8%しかないにもかかわらず、議席数では両党を合わせて3分の2を超える大多数となっている。

 先月の総選挙の際、12月13日付当サイト記事『自民党、得票率わずか35%でも大多数 ゆがんだ政治を許す裁判所、その改革方法とは?』でも、いびつな選挙を許している裁判所に関する瀬木氏の指摘を紹介した。

 今回の国民審査の結果を受けて、瀬木氏は次のように語る。

「罷免率が平均で9%以上というのは、非常に高い割合になってきていると思います。09年、12年と比べ、増加が顕著です。およそ国民の10人に1人が最高裁裁判官の罷免を積極的に求めている状況であり、司法への信頼が大きく失われてきているのではないでしょうか」

 今回、行政官出身の山本氏の罷免率が低く、一方で木内氏、池上氏、山崎氏の罷免率が高い結果となったことについて、こう見解を述べた。

「罷免率が低い山本氏は内閣法制局出身で、13年7月の参議院選挙の無効が争われた裁判において『無効とされた選挙において一票の価値(<各選挙区の有権者数÷各選挙区の定数>を<各選挙区の議員一人当たりの有権者数÷全国平均の有権者数>と比較した割合)が0.8を下回る選挙区から選出された議員は、すべてその身分を失うものと解すべき』と、明確に一票の格差の違法を判断しています。その上で、『選挙制度の憲法への適合性を守るべき立場にある裁判所としては、違憲であることを明確に判断した以上はこれを無効とすべきであり、そうした場合に生じ得る問題については、経過的にいかに取り扱うかを同時に決定する権限を有するものと考える』と判断しています。この点が、最高裁の中でも権力の監視機能をきちんと果たしている裁判官として評価されたのではないでしょうか」

 つまり、国民は一票の格差の是正を求めており、さらに突き詰めれば、最高裁が権力に迎合するのではなく、独立し、毅然として権力のチェック機能を果たすことを求めているといえるのではないだろうか。

 一人一票の原則を尊重し、参院選の無効を認定したことで山本氏が評価されたのだとすれば、この国民審査の結果は国民の重要な声を反映している。

 仮に政権が暴走したとしても、司法はその行為を独立した立場から監視して判断し是正できる、非常に重要な存在である。この国民審査の結果が司法改革に反映されることを期待したい。

 実際のところ、国民審査について多くの報道では「全員が信任された」ことしか報じていないが、報道機関は罷免率が平均9%以上と非常に高い状態に達している事実と併せて、その詳細な内容を伝えるべきである。そして私たち国民は国民審査において適切に票を投じ、明確に意見を出せるようにすることが大切だ。
(文=編集部)

※なお瀬木氏は、1月16日に、日本の裁判の総体的な批評を行った新著『ニッポンの裁判』(講談社新書)を上梓。「日本の裁判は、本当に中世並みだった!」と帯にも記載されている通り、名誉棄損裁判が権力者である与党におもねって変遷した最高裁内部の実態や、すべては予定調和の原発訴訟の実態、中身も見ず有罪として冤罪多発の刑事司法の実態などを冷静に分析しており、最高裁内部の事情がよくわかる本として大きな反響を呼んでいる。

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