両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成26年3月4日、産経新聞

全国初「離婚合意書」の効果は 離婚で悲しむ子供を守れるか

日本はいまや、夫婦の3組に1組が離婚するという高い離婚率に見舞われている。このため、養育費や面会など、離婚の際に子供をめぐるトラブルも増加。そんな夫婦の下で“蚊帳の外”の存在になりがちな子供を守ろうと、兵庫県明石市は、未成年の子供を持つ夫婦が離婚や別居をする際、養育費や面会交流の取り決めを行うよう、関係機関と連携して働きかける「こども養育支援ネットワーク」を4月からスタートさせる。夫婦関係が行き詰まった場合、後回しにされがちな子供の権利を守ることに重点を置いた支援で、全国の自治体で初めての取り組みとなる。同市は「行政は夫婦のどちらの味方でもない。あくまで子供の立場に立った支援を行う」としている。(井上浩平)

 ■後を絶たない離婚トラブル

 「両親が離婚すると、子供はある日突然、片方の親と会えなくなる。子供は両親から愛情と栄養を受ける権利があるはずなのに、おかしいと思いませんか」

 この取り組みを決めた同市の泉房穂市長は産経新聞の取材に対し、大きな手ぶりを交えながら、強い口調でこう問いかけた。

 泉市長は弁護士出身で、弁護士時代には離婚など福祉問題に積極的に取り組んできた。離婚夫婦の父親側の代理人をしていたころ、親権を持つ母親に、父親には子供に会う権利があることを伝えると、「子供に会いたいなんて、養育費を払ってから言ってほしい」と反論されることが大半だったという。

 「養育費は払うようにするが、子供と父親とを会わさない理由にはならない。子供は父親に会いたいはずで、両親が離婚しても父と子の関係は永遠に続く」と説明しても、理解は得られなかったと振り返る。

 このように、離婚の際に子供をめぐってトラブルになるケースは後を絶たず、最悪の悲劇に至るケースもある。東京都文京区では平成25年12月、離婚調停中の父親が、野球の練習中だった小学3年の次男を連れ出して無理心中を図り、2人とも死亡する事件が起きているのだ。

 ■有名無実の離婚の取り決め

 厚生労働省の平成25年の人口動態統計によると、年間の離婚件数は約23万件。離婚後の8割は母親が子供の親権を持つが、父母間で養育費に関する取り決めをしていたのは37・7%。実際に養育費を受けていたのは19・7%にとどまった(厚労省・23年度全国母子世帯等調査結果報告)。

 主な理由として、相手に支払う意思や能力がないと思ったり、相手とかかわりたくないと思ったりしたことが挙げられている。

 また、子供が離婚などで離れて暮らす親と定期的に会って交流する面会交流についての取り決めをしていたのは23・4%。そのうち実際に交流していたのは27・7%という低水準だった。子供と会えずに家庭裁判所に調停を申し立てる件数は年々右肩上がりで、23年度に新規で受理した調停は8714件で、10年前の約3倍となっている。

 24年4月には、子供のいる夫婦が離婚する際、養育費と面会交流について取り決めるよう定めた改正民法が施行された。離婚届に任意で取り決めの有無を記すチェック欄が新設されたが、記入がなくても受理されるため、実効性は疑問視されている。

 ■よりよい離婚のために自治体が“サポート”

 この状況を受けて、明石市が全国に先駆けて開始する取り組みが「こども養育支援ネットワーク」だ。離婚を考える夫婦が市役所を訪れた際、養育費や面会交流について離婚後の方針を記入する2種類の用紙を配布するのが、支援策の目玉となっている。

 このうち、「養育プラン」の用紙には、離婚や別居後の生活拠点や養育費、面会交流について父母それぞれが記入。「合意書」は父母が連名で、親権や養育費、面会交流について合意した内容を書く。いずれも市への提出義務はないが、合意書は公証役場でより法的効力の強い公正証書を作成する際の資料として使うことができるという。

 ただ同市の担当者は「用紙の配りっぱなしになることは避けたい」と話す。そこで、記入の“特典”として、面会交流の際に親子で利用できる市内の公共施設の無料ペア券贈呈も検討している。さらに、将来のトラブルに備えて合意書を公正証書にしてもらうよう、作成費用の助成も視野に入れている。

 さらに、相談体制も充実させる。従来の弁護士による法律相談と、同市が雇用している弁護士臨床心理士ら専門職による相談に加えて、毎月1回、元裁判所の調査官らで作る「家庭問題情報センター大阪ファミリー相談室」による相談も始める。

 また、市の相談窓口では、調停申し立てを検討している父母に、申立書の配布や作成支援を行う。希望があれば、5月から市役所に設置される法テラス分室の弁護士への取り次ぎも行う。

 ■家庭はもはや「安住の地」ではない

 もちろん、行政が夫婦関係に介入することには異論もある。それでも泉市長は「従来、日本社会には『法は家庭に入らず』という考え方があったが、2000年代に潮目が変わった」と意に介さない。

 その理由の一つとして、泉市長は、家庭内での虐待や暴力が増え、子供にとって家庭が安住の地でなくなったことを挙げる。また、以前は家庭内で発生した問題を、親族や地域がケアする面もあったが、家庭を取り巻く環境が大きく変化し、その機能が発揮されなくなったことも大きいという。

 「家庭に身近な行政が、家庭にしっかりと関与し、支えていく時代が始まった」と泉市長は言う。同市だけの取り組みで終わらないよう、書式をホームページで公開し、他の自治体に活用されることを念頭に置いている。支援を拡充させるため、養育費建て替え制度の導入も検討しているという。

 この取り組みについて、早稲田大の棚村政行教授(家族法)は「離婚や別居時の、(1)相談体制の充実(2)参考書式の配布(3)関係機関の連携-という3つの柱で、離婚後の子供の問題について自治体が支援しようとする画期的な支援策だ」と評価。そして、「他の自治体もできるところから支援体制を充実させ、子供の幸せのための取り組みが全国で広がってほしい」と期待する。

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