令和5年8月30日、東京新聞
「共同親権」海外の事例から見たメリットと課題 日本で導入するならどんな問題が?
法制審議会の29日の部会で、離婚後も父母双方が子の親権を持ち続ける「共同親権」の導入に向けた民法改正案の方向性が示された。早ければ来年の通常国会での法改正で、離婚後の親権は父母のいずれかが持つという現行制度が大きく変わる可能性がある。諸外国の類似の制度から、共同親権の利点や課題を探った。(大野暢子)
◆定着したアメリカ「両親に養育されることが子の利益」
離婚後も両親が共に子を育てる仕組みが定着しているのは米国だ。離婚数が増加し、男女平等の原則が普及していった1970年代以降、共同監護法が各州に広がり、これまでにほぼ全土で立法化されている。
両親は離婚する際、子と過ごす時間の配分や教育・医療の方針、意見の食い違いがあった場合の対応などをまとめた「養育計画書」を裁判所に提出する義務がある。対立している両親は別々に計画書を提出し、裁判所の判断を仰ぐ。
関西学院大の山口亮子教授(家族法)は「養育を分担し、子を互いの家に行き来させる例もあれば、定期的に面会交流し、重要事項を話し合いで決める父母もいる」と説明。婚姻の有無とは別に、両親に養育されることが子の利益につながるとの考え方が浸透しているとして「日本も同様の仕組みが望ましい」と話す。
◆厳格なドイツ「容易に親権を剥奪される」
ドイツも97年に民法を改正し、離婚後の共同親権を導入。京都大の西谷祐子教授(比較法)によると、米国と違って日常の養育は子と暮らす親が担い、重要なことは両親で決めるのが通例。虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の問題もあまり聞かれず、社会に根付いているという。
日本では、離婚後に子と疎遠になっている親たちを中心に、諸外国を手本に共同親権の導入を望む声がある一方、関係が悪化した父母の間では、子の面前でのDV、虐待、紛争といった負の影響が続く恐れがあるとして慎重論が消えない。
諸外国の仕組みがそのまま日本社会になじむのかという懸念もある。西谷教授は「ドイツでは養育費の不払いは刑事罰の対象で、DVや虐待をする親は、離婚前でも日本より容易に親権を剥奪されるなどの厳格な制度がある」と指摘。日本で導入する場合には、弱い立場にある親や子にしわ寄せがいかないような環境整備が必要だと語る。
◆被害が表面化しづらくなったオーストラリア
オーストラリアは95年に連邦家族法を改正し、子が父母の両方から世話をされる権利を明記。2006年には、主な世話を担う「監護親」を決める際、別居する親と子の交流に前向きな親を優先する条項を設けたが、わずか5年後の11年に削除された。
大阪経済法科大の小川富之教授によると、この条項によって、監護親が「DVや虐待の被害を訴えて認められなかったら、交流に消極的と見なされて監護親でいられなくなる」と考え、被害が表面化しづらくなったという。「暴力などがないかを見極める支援機関や相談窓口を整備したのに、子に危害が及ぶ事件も起きた。海外で成功したから日本でもという主張は乱暴だ」と訴える。
共同親権に関し、法務省に届いたパブリックコメントは約8000件。賛成意見の多くは団体から寄せられ、個人では単独親権の現行制度を支持する声が目立った。導入の是非を巡る国民的な議論はまだ深まっていないのが実情だ。
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