令和3年2月22日、産経新聞
子供の引き渡し、強制執行「成功」は3割 最高裁
離婚や別居に伴う子供の引き渡しをめぐり、裁判所の執行官が司法判断に従わない親から子供を直接連れ戻すために昨年末までの過去5年間で対応した計477件の強制執行のうち、連れ戻しに「成功」したのは約3割にとどまることが22日、最高裁の調べで分かった。昨年4月の法改正で同居中の親が不在でも執行可能となったが、現場では困難も多く、法の実効性が問われている。(桑村朋)
日本では、離婚すると父母の一方しか子供の親権が持てない「単独親権」制度が採用されている。子供を養育する監護権と親権を、父母で分けることも可能だ。婚姻中の父母は別居中でも共同で親権を持つが、裁判所が片方の監護権を認めることもある。
最高裁によると、裁判所の審判や判決で子供の引き渡しが確定したのに片親が従わず、強制執行へ発展した件数は、昨年は計51件だった。これらは強制執行のうち、相手に直接的に義務を履行させる「直接強制」に該当する。強制執行の結果、引き渡しが成功した「完了」は33・3%の17件。実現しなかった「不能」は41・1%の21件で、何らかの理由で執行が中止となった「取下げ」が25・4%の13件だった。
昨年は新型コロナウイルスの影響で、強制執行は例年の半数程度。ただ、昨年末までの過去5年間をみると、強制執行件数は計477件で、このうち「完了」の割合は昨年単年と同水準の32・2%、件数は154件だった。強制執行中に任意で引き渡されることもあり、この場合は「取下げ」に含まれる。
法曹関係者によると、現場では執行官の前で子供本人が泣き叫んだり、親が理由をつけて強硬に拒んだりすることもあり、強制執行できない原因とされる。
昨年4月施行の改正民事執行法では、強制執行の際に同居中の親の立ち合いが不要となり、執行官が学校や保育園で子供をそのまま連れ戻すことも可能となった。それでも同居が長期に及んでいる場合、現地の生活に子供自身が慣れていることも多く、子の福祉の観点からも執行官が無理に連れ帰ることは難しい。
子供の監護の問題に詳しい谷英樹弁護士(大阪弁護士会)は「同居する親との生活に慣れ、長く離れたもう片方の親との新たな生活について不安を抱く子供は多い。面会交流を十分に保障して子供の不安を解消するなど、子の利益を最優先にする工夫をし、改正法の実効性を高めるべきだ」としている。
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親同士の関係性が極度に悪化した末、片方の親が黙って子供を連れて家を出る「連れ去り」により、子供の引き渡しが困難となるケースは後を絶たない。裁判資料や関係者への取材から、ある家庭の実情に迫った。
《娘が大泣き。『ママが殺し屋に頼んでパパを殺す話をしてたのを思い出して怖くなった』とのこと》
大阪府の40代女性は昨年秋以降、娘を連れて京都府内で別居する夫のこんなツイッターを見つけた。「小学校低学年だった娘はそんな言葉を知らないはず。娘を装った嘘の投稿だ」と憤る。
別れ話を始めていた平成30年3月、東京出張から戻ると、夫と娘が家からいなくなっていた。夫による連れ去りだった。
女性は、娘の引き渡しを求める審判を家裁に申し立て、令和元年5月に「監護権者は妻」とする判決が大阪高裁で確定。だが夫は従わず、同年9月に確定した1日1万円の支払いを課す間接強制決定にも、「娘は自分の意思で(夫の下に)とどまっている」と支払いを拒み続けている。
執行官による直接強制は2度行われたが、「娘が泣いている」などの夫の訴えでいずれも失敗した。
女性は京都地裁に人身保護請求も行い、娘の引き渡しを命じる判決が出た。今年1月には、ツイッターへの投稿が名誉毀(き)損(そん)罪などに当たるとして告訴したが、状況は好転していない。
女性は「これは誘拐と同じ。監護権者は私なのに。法や仕組みに何か不備があるのでは」とし、「娘の心が離れないうちに連れ戻したい。法的に正しい側が、泣き寝入りしない世の中であってほしい」と願っている。
夫の代理人弁護士は産経新聞の取材に対し、「妻に引き渡すべく努力しているが、妻により強制執行や人身保護請求が繰り返され、娘は加療が必要になった。妻に強い拒否感を抱いており、これは全て妻の行動に起因するものだ」と書面で回答している。
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直接強制 民事執行法に基づく強制執行の一つ。判決などで命じられた債務を履行しない相手に対し、強制的に義務を履行させること。地裁の決定に不服がある場合、執行抗告して高裁判断を仰ぐことができる。高裁決定に対する不服申し立てもできる。強制執行には、裁判所が一定の金銭を支払うよう命じることで心理的に圧力をかける間接強制や、債務者以外の第三者が代行する「代替執行」などがある。
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