両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和3年2月21日、東京新聞

別居親 学校で面会交流 静岡・藤枝市が全国初の試み 非親権者の男性 訴え実る

 学校が、離れて暮らす親と子どもの面会交流の場になる-。
静岡県藤枝市がこんな試みを新たに始めた。自治体が面会交流のために学校利用を認めたのは全国で初めて。もちろん異論も予想された。そんな中で実現した背景には一人の親の熱意があった。

 「子どもとの面会交流の場に苦労する他の人のためにもなると思って、市にお願いをしました。」藤枝市に住む三十代の会社員男性は振り返る。
 二年前、元妻の金銭問題が原因で別居。離婚裁判を起こされ一人娘の親権を争った。元妻は娘を連れて家を出ていたため、裁判所は「子どもの生活環境を変えない方がいい」と判断。「親権者は元妻とする代わり、週二回の面会交流は継続する」とする和解案を示し。男性も同意した。
 離婚裁判が続いている間、男性は娘の通う保育園に「まだ離婚は成立せず、親権も監護権も妻と共同で行使している。園内で娘に会わせてほしい」と相談。了解を得て週二回、夕方の迎えの時間帯にに十分ずつ、娘に会いに行っていた。和解の内容は、この実績が反映されたといえる。
 次に男性が考えたのが「私が保育園で娘に会えたのだから、親権を失ったほかの親も同様に面会できるようにならないか」ということだった。自身が八か月間、問題なく面会交流を続けてきたことを実績として、昨年十月に市と交渉を始めた。
 二千十一年の民法改正で協議離婚の際には、子の養育費とともに面会交流について取り決めるよう定められた。しかし、強制力はない。別居親が子と会うことや学校行事への参加を求めた場合、学校がどう対応すべきかという指針もない。現場の判断に任されてきた結果、別居親の来校が制限されることも少なくない。
 しかし、学校で非親権者の親と子どもが会うことを妨げる法的根拠はない。それは文部科学省も認めている。問題は場を提供するのかどうか施設管理権を持つ教育委員会の判断だった。
 藤枝市教委は十一月になって「法的根拠のある接近禁止命令が出されている場合などをのぞき、離婚して親権を失った親でも小学校内での面会は可能」と判断し、面会交流の場を提供すると男性に通知した。前例のない画期的な取り組みの表明だった。
 市内の公立小中学校や保育園、幼稚園に周知し面会交流が可能になった。「子どもにとっては別居親も大切な親。面会交流も施設管理権を侵害しない範囲でならできると判断した。まだ実例はなく手探りだが、安全に進めたい」と担当者は話している。
 市教委のホームページによると、離婚時に裁判所が作成した調停調書や審判所、判決書、両親の合意書面などによって面会交流が認められている場合、放課後の時間帯に小会議室など面会する場所を提供することを想定している。「非親権者というだけで偏見も持たれ、今までは学校にいくと追い返されたり、警察を呼ばれたりした。そんな実務を変えていくきっかけになる」と男性は喜ぶ。
 しかし、親権者の同居親の中から当然、反対の声が出てくることが予想される。多くの自治体は「学校は学習活動の場。面会交流を行うことは想定していない」と消極的だ。専門家は同市の取り組みをどうみるのか。
 関西学院大の井上武史教授(憲法)は「面会交流は別居親の人権としてあるべきだが、適切な場所が少ないために問題も起きている。離婚も増える中で面会交流は公共政策として取り組むべき課題であり、自治体による場所の提供によって支援がなされるのであれば望ましい。学校などが別居親と子の交流を見守ることに意義がある」と話した。

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