平成26年5月3日、西日本新聞
子どものことを忘れないで 養育費や面会交流 離婚届交付時に参考書式を配布 兵庫県明石市がサポートに乗り出す
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両親が別れた後の子どもを支援しようと、兵庫県明石市が4月から「こども養育支援ネットワーク」の取り組みを始めた。養育費や面会交流の取り決めを記入する書類を離婚届と一緒に配布し、相談会も開催。親権や養育をめぐる争いが増える中、行政ができるサポートとして注目されている。
明石市が配布しているのは「こども養育プラン」と「こどもの養育に関する合意書」の2種類。まず「プラン」に、子どもの生活拠点▽養育費の額や支払い時期▽面会交流の方法や頻度-などを書き込み、その要約を「合意書」に記入して父母が署名する。
このほか、家庭裁判所の元調査官らによる無料相談を月1回、市役所で開催。弁護士への相談を希望すれば県弁護士会につなぐなど関係機関とも連携する。
法務省によると、こうしたサポートを自治体が取り組むのは「聞いたことがない」という。
「これまでは『法は家庭に入らず』との考えが根強かったが、児童虐待などが増え、家庭だけに任せてはいられなくなった」。明石市の泉房穂市長は、導入の理由をそう説明する。
2012年の司法統計によると、面会交流を求めた調停や審判の申し立ては1万1459件で、10年前の約3倍に増加した。こうした状況を受け、12年4月施行の改正民法に離婚後の子の監護に関して協議で定めるべき事項として「面会交流」と「養育費の分担」を明記。離婚届に両事項を取り決めたかどうかの確認欄が新たに設けられた。
ただ、未記入でも受理されるため「実効性に乏しい」との声も。明石市独自の書類も提出義務はなく、法的拘束力もないが「最大の被害者は子どもなのに、親の関心が向かないことが問題。離婚届と同時に書類を渡せば、子どものことを考えてもらえるはず。そこに一番の意味がある」(泉市長)。公正証書を作る際の資料としては有効という。
離婚後の子どもの支援については、これまで民間主導だった。そこでは申し出のあった一部の子どもにサポート対象が限られ、課題となっていた。
その点、離婚の際に必ず利用する行政窓口から支援がスタートすれば、対象は広がる。面会交流の橋渡しなどに取り組むNPO法人「北九州おやこふれあい支援センター」の理事長で、福岡県立大名誉教授の宮崎昭夫さん(71)は「子どもの権利を守るのに一定の社会的コントロールが働き、意義がある」と評価する。
欧米では、離婚後の養育を詳細に記入する計画書「ペアレンティングプラン」を提出しないと原則、離婚できない国もある。宮崎さんは「明石市の試みが九州の自治体にも広がってほしい」と話している。
明石市は「他の自治体にも活用してもらえれば」と2種類の書式を市のホームページで公開している。