令和2年12月16日、47NEWS
「お父さん、次はいつ会える?」 自由な面会求め、子どもが国を提訴
夫婦の離婚などで一緒に住めなくなった親子をつなぐ「面会交流」。2020年11月、別居中の親子ら17人が「法の不備で自由に面会交流できないのは憲法違反だ」と、東京地裁に国家賠償請求訴訟を起こした。これまでも同種の訴訟はあったが、子どもが原告に加わるのは初めて。「お父さん、次はいつ会える?」。原告たちは取材に、幼い頃に家族がばらばらになり、心に負った深い傷を明かしてくれた。背景には親の立場を重視し、片方にしか親権を認めない「単独親権」という法的枠組みがあり、国は見直しに慎重だ。他方、子どもの権利を尊重し、先んじて面会交流支援に乗り出した自治体もある。(共同通信=寺田佳代)
▽離れ離れの生活がフラッシュバック
「もっと面会交流が多く実施されていれば、ここまで苦しまなかったかも」。原告の一人の千葉県の男性(20)は提訴後に記者会見し、家族と会いたくても会えなかった過去を振り返り、せきを切ったように話した。
2011年、両親が不仲となり、男性は弟と一緒に千葉県の自宅から母の実家がある北海道へ連れて行かれた。当初は新生活にわくわくしていたが、やがて千葉にいる父や友人を思い出し「今はどうしているのか」と不安が募った。中学進学後、気づけば学校に通えなくなっていた。独りで千葉の父親の元へ戻ったが、母側代理人から面会を拒絶され、今度は弟とも会えなくなった。
中学3年の時に再び北海道に戻ると、母は知らない男性と一緒に住んでいた。母は外泊も多く、弟が家で1人の日も多かったという。 現在は父側に親権が認められ、父と弟と3人で暮らす。だが家族が離れ離れだった昔の生活のフラッシュバックに苦しみ、動悸(どうき)も激しくなるという。弟も育児放棄などによる精神的ダメージを受けたとみられ、今年9月に兄弟ともに心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。
男性は「当時は、『父に会いたい』と言うことが、母の負担になるのではないか、と思っていた」と話す。「自由に面会できれば素直に本音がさらけ出せたかもしれない。離れていても、家族に気持ちを伝えたい瞬間はあるはず」と訴えた。
▽離婚、次第に会えなくなり…
12歳の中学1年の男子生徒も、提訴前に取材に応じてくれた。原告最年少だ。10年前に両親が離婚し母親に引き取られたが、父親とは月1回会っていた。朝、生徒の家の最寄り駅に待ち合わせ、街をぶらぶらしながら夕方に別れるのがいつものコースだった。
ところが小学5年のころから「次はいつ会える?」と聞いてもはっきりと返事がなく、その後面会を断られることが増えた。「お父さんは信頼できる存在。面会交流の日は毎回、次も会えると思っていた」と話す。
母親によると、元夫は別の女性と再婚し、養育費の減額も求めてきたという。母親は「親の感情や状況の変化で、面会が不安定になるのは良くない。安定して会える基準がほしい」と話す。「本当はもっと会える回数を増やしたい」。生徒は心の内を漏らした。
▽世界の主流は、離婚後も双方に親権
「面会交流の頻度で1番影響を受けるのは子どもなのに、日本の法制度は、子を個人として見ておらず、意見が尊重されない」と原告側代理人の作花知志弁護士は訴える。日本の民法は、離婚すると父母の一方しか子の親権を持てない「単独親権」を採用。親権がない親は子育てに関われず、面会も十分にできないケースがよくある。
一方、海外は離婚後も父母の双方が親権を持つ「共同親権」が主流だ。法務省の調査では、欧米やアジアなどの24カ国中、日本と同様に単独親権のみの国はインドとトルコだけだった。
「離婚で親権を失い子育てに関われなくなった」、「国は共同親権制度の立法を怠った責任がある」。近年、離婚した親らが、単独親権は法の下の平等などを定めた憲法に反するとし、国に損害賠償を求める訴訟が相次いで起こされている。
共同親権導入に向け活動する「子育て改革のための共同親権プロジェクト」発起人の松村直人さん(48)は、離婚後は母側に親権が渡り女性が子育てをするケースが多いとし、「単独親権が男女不平等を招き、男性の育休取得推進や女性の活躍をうたう、時代の流れと矛盾している」と主張する。
▽「子どもに悪影響」と慎重論も
国も重い腰をあげた。2019年11月から法務省は、共同親権導入の是非について、各省庁担当者や有識者らによる「家族法研究会」を発足させ、議論を重ねている。ただ、共同親権は父母の対立や虐待、ドメスティックバイオレンス(DV)などがあった場合、問題が離婚後も持ち越されて子どもに悪影響が生じる恐れがあるとして慎重意見も根強い。
一般社団法人「ひとり親支援協会」(大阪市)の今井智洋代表理事もその一人。「元配偶者のDVやモラルハラスメントに悩み、子どもに波及することを心配するシングルマザーは多い。共同親権の導入を議論するにしても、そうしたケースへの配慮は絶対に必要だ」と話す。一方で「離婚後も父母がともに子育てにかかわる『共同養育』がうまく行くケースもある。子どもの権利である養育費の確保は大前提の上、離婚前後の状況によって面会交流を個々に検討できる仕組み作りが大切」と指摘する。
▽自治体が面会支援に汗
直接の話し合いが難しい両親の間に入る形で面会交流を支援しようと、新たな取り組みを始めた自治体がある。兵庫県明石市は市内の中学生以下の子どもを対象に、別居の親との面会交流を深める場として、市立天文科学館を無料で観覧できる事業を実施。また親子交流支援アドバイザーらが面会の日程調整などを助け、2017年以降、17組の親子が170回以上面会したという。
厚生労働省も自治体による面会場所のあっせんや付き添いなどの支援事業費を補助。18年は9自治体が利用した。明石市の担当者は「なかなか他の自治体が後に続いていないのが実情。子どもが精神的にも経済的にも影響を受けないよう、国や県はもっと体制づくりをしてほしい」と話す。
早稲田大の棚村政行教授(家族法)は、親同士の対立から子を守る視点で、支援者の養成や行政の助成が必要だと指摘。親の立場を基に、親権制度を発想している日本の実情を踏まえ「単独親権と共同親権の選択制が適しているのではないか」と話している。(おわり)
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