両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和元年7月13日、AERA

「離婚をしても親はふたり」子どもを私物化しない共同養育のススメ

 ひとり親という言葉があるが、亡くなったのではなく離婚をした場合の表現としては、実はおかしい。離婚をしても、子どもにとって親はふたり。子どもはどちらの親からも愛されて育つ権利があるはずだ。

 しかし、現状では両親の離婚後、一緒に暮らしていないほうの親と子どもが定期的に面会をしているのは、母子家庭で約3割、父子家庭で約4.5割(厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告より)。面会交流をしていない理由は様々だが、母子家庭の場合はとくに「相手とかかわりたくない」という答えが目立つ。そう、多くの子どもたちが、親同士の感情のもつれから、片親との交流を奪われているのである。

 しばはし聡子さんも、以前は「元夫とかかわりたくない」ために、子どもと父親との面会交流に消極的な親だった。

「4年前に離婚したとき、息子は10歳。息子から父親を奪うつもりはありませんでしたが、まだ小学生だったので、親同士が連絡を取り合わないと会わせることができません。でも私は、離婚時に揉めたトラウマから元夫とかかわるのが苦痛で、あまり積極的にはなれませんでした。息子に『パパに会いたい?』と聞き、いま思えば私に気を使って『別に』と答えたのをいいことに、『とくに会いたくないみたいですけど』と、元夫に伝えたりもしていました」

 しかし、離婚という辛い経験を無駄にしたくないと始めた勉強会で、離婚後の子どもの面会交流についての知識を深めるうちに、離婚をしても子どもは両親のどちらともかかわるべきだと考えるようになった。「両親のどちらからも愛されている」と実感できることが、子どもの気持ちを安定させる。そこで振り返ってわが子を見てみると、父親に会いたいと言えない子どもにしてしまっていた。

「このままではいけないと思い、自分から元夫に『来週、息子をごはんに連れて行ってあげてください』とメールしました。何をいまさらと言われることも覚悟しましたが、元夫は『喜んで!』と返してくれました。そこからするすると気持ちがほぐれ、息子をはさんだ親同士として元夫と連絡を取り合うことに、まったく抵抗がなくなりました」

 そんな親の変化を感じてか、息子は父親に会いたいという気持ちを隠さなくなった。会った後は「こんなものを食べたよ」「こんな話をしたよ」などと、うれしそうに父親の話をしてくれるようにもなった。

「私との間で父親の存在がタブーではなくなり、家の中が明るくなりました」
  
 中学生になってからは、自分が会いたいときに自由に父親に会いに行くようになり、泊まってくることも増えた。しばはしさんももちろん、快く送り出している。男親ならではのかかわりは、思春期真っ只中の子育てにはむしろありがたい。

「離婚をしても親はふたり。離婚後も両親が子育てにかかわる『共同養育』は、息子にとってはもちろん、私にとっても元夫にとっても、よいことだと実感しました」

 この経験を踏まえ、しばはしさんは「共同養育」普及を目指し、一般社団法人りむすびを設立。離婚相談や面会交流支援などを行なっている。

■離婚によるダメージを最低限にできる「共同養育

「私が考える共同養育とは、子どもが両親の顔色を見ずに素直な気持ちで『お父さんに会いたい』『お母さんに会いたい』と言えたり、自由に行き来したりできる環境を、親同士が協力し合ってつくっていくことです。その環境さえあれば、たとえ親同士が直接顔を会わせることができなくても、共同で養育していると言えると思います」

 共同養育のメリットは、子どもがどちらの親からの愛情も変わらず受けられることで、離婚によるダメージを最低限にできることだ。

 子どもがいるならできれば離婚は避けたいけれど、夫婦が破綻してしまったのなら仕方がない。離婚をしても共同養育者として子どもをはさんで新しい関係を築き、子どもが両親のどちらからも愛されていると感じられるようにできるなら、仲が悪い夫婦の姿を見せるよりむしろよいだろう。

「なかには、離婚は自分のせいだと思って苦しむ子どももいます。共同養育を行うことで、離婚はあなたのせいじゃないよ、と伝えることにもなるんです」

 共同養育は、子どもだけではなく親にもメリットがある。子どもと同居している側の親にとっては、ワンオペ育児からの解放。子どもが元夫(妻)と会っている間、自由な時間がもてるし、何か買ってもらったり食べさせてもらったりすれば、家計も助かる。

「離婚をしたからといって一人で子育てを背負おうとはせず、相手のマンパワーも活用することで、時間にもお金にも精神的にも余裕が生まれます」

 自分に万が一のことがあったときの、リスクマネジメントとしても有効だ。いざというとき、これまでほとんど会っていなかった元夫(妻)に子どもを託すのは不安でしかないが、交流していたのであれば少しは気が楽だ。

「子どもと別居している側の親にとっても、血のつながった子どもとかかわれることはうれしいはず。また、会っている、会っていないに関係なく養育費は当然の義務ですが、子どもの成長を目にしていれば、責任感は高まるでしょう」

 さらに「共同養育」は、社会的な課題を解決する糸口にもなる。最近、親のパートナーによる連れ子に対する虐待などの事件が頻発しているが、それを避けるためにも子どもの実親というもう一つの目が入ることは大切だ。

■「共同養育」があたりまえの社会に

 しばはしさんの願いは、「共同養育」があたりまえのこととして広まることだ。

「『離婚をしても親はふたり』と伝えると、たいていの人は『そりゃあそうだよね』って言うんです。でも、自分が当事者になった途端に忘れてしまう。相手に対する嫌悪感や憎悪感から『私の子どもをなんであんな奴に会わせないといけないの』と」

 しかし、そうして子どもを私物化し、ひとりで抱え込むことには弊害しかない。「ひどい親だから」と会わせなければ、子どもはひどい親だと思い込んで育つ。ひどい親かどうかを判断するチャンスも与えられないのは、子どもにとってどうなのか。子どもに対する暴力などの場合を除いては、どんな親でも子どもにかかわり続けていくべきだ。

「どうしても離婚が避けられないなら、子どもが不幸にならないようにしてほしい。そのためにも『共同養育』があたりまえの社会になってほしいと思っています」

(文/上條まゆみ)

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