平成28年2月20日、DIAMOND online
男は離婚で「妻子」以外に何を失うのか(上)
世の男性たちは「妻との離婚」によって何を失うのか。今月早々、そのことを否が応でも考えさせられる事件を目にしました。そう、元プロ野球選手・清原和博容疑者の逮捕(覚せい剤取締法違反)です。
ご存じの通り、清原容疑者は2年前に妻と離婚しました。2人の息子は妻が引き取ったのですが、薬物に手を染めるような輩は、どうせ子どものことも顧みないダメ亭主に違いないと世間的には思われがちです。しかし報道によると、清原容疑者は野球の試合に応援に行くなど息子を可愛がっていたようです。もちろん、薬物の乱用は決して正当化することはできませんが、特に子を持つ父親の立場からすると、清原容疑者を頭ごなしに責めることができないのは、彼のなかに父親らしさが垣間見えるからかもしれません。
少し話は変わりますが、俳優の高岡奏輔も昨年末、見知らぬ男性と喧嘩沙汰になり、顔面を殴ったり、腹を蹴るなどして怪我を負わせたとして逮捕されました。当時、高岡は泥酔状態だったと報道されています。彼もやはり5年前、女優の宮崎あおいと離婚しており、「離婚→不祥事→逮捕」という流れは清原容疑者と共通しています。
■離婚は男にとって「つらい過去」なのか
遅かれ早かれ、失ったものの大きさを目の当りにして愕然とするとしたら……
ここで考えてみたいのが、離婚は赤の他人に喧嘩を吹っかけるほど大量のアルコールを摂取したり、覚せい剤を使って一時の快楽に溺れなければならないほど、男にとって「つらい過去」なのか、ということです。どちらのケースも離婚から2~5年が経過しているのですから、そろそろ「時間が解決」しそうなものですが、むしろ「時間が悪化」させているように見えます。
「鬼嫁と離婚できて、せいせいしたわ!」
「ようやく自由の身になったから、もっといい女を探そう!
「金を家に入れなくていいから、ぜんぶ俺の小遣いだ!」
そんなふうに「妻との離婚」を楽観的に捉え、人生の再出発だと思い、前向きに進んでいくことができれば「つらい過去」とは言えません。しかし実際にはどうでしょうか。離婚直後はまだ強がっており、「何を失ったのか」に気づいていないだけなのです。遅かれ早かれ、失ったものの大きさを目の当りにして愕然とするとしたら……離婚から時間が経てば経つほど、じわじわと心を蝕まれてもおかしくはないでしょう。まるでボクサーが打ち込むボディーブロー、いやレバーブローのように。
では、世の離婚した男性たち何を失ったのでしょうか?今回は私のところに来た男性の相談内容のなかから、子どもがいた離婚で相談が多い(1)お金、(2)プライド、(3)育児の協力、(4)親子関係のケースを順に見ていきましょう。心の傷はどのくらい深く、大きく、暗いのか……傍から見てもピンとこないので、やはり経験者の声を聞くのが手っ取り早いでしょう。
(1)「お金」
「自殺も考えましたが、なかなか踏ん切りがつきません。本当に死んだほうが楽になれるような気がします。生きていても仕方がないような気がしてならないです」
そんなふうに苦しい胸のうちを語ってくれたのは星野雄大さん(36歳)。雄大さんはどうして精神的に追い詰められ、ここまで人生に絶望し、そして「自殺」の二文字が頭をよぎるまでになってしまったのでしょうか?
雄大さんが元妻と離婚したのは6年前。1人息子は妻が引き取り、雄大さんは妻に対して息子さんの養育費として毎月9万円を支払うことを約束しました。雄大さんの当時の年収は600万円。毎月9万円の養育費は労せず支払える範囲だったのですが、東日本大震災をきっかけに状況が一変しました。
■アルバイト、借金で養育費を工面 離婚貧乏の最たる例
雄大さんはイベントの企画会社を経営していたのですが、震災後は仕事が激減し、収入は3分の1以下に。自分が食いつなぐので精一杯なのに、息子さんの養育費は貯金を切り崩し、アルバイトをし、さらに消費者金融で借金をして、何とか支払ってきました。しかしこのような自転車操業が長続きするわけもなく、すでに限界に達していたのです。現在はうつ状態で心療内科へ通院しているそうです。
「どうすればいいのか……物事を考えることすら、今はしんどいです。夜も寝られず、体重も10キロもやせて、もう元には戻れないような気がします。毎日、布団の中で悩んでいるだけ。本当は先方(元妻)に頭を下げるしかないんでしょうけれど、頭では分かっていても体がついていかないんです」
ちになる「離婚長者」など世の中にはほとんど存在せず、十中八九は離婚したせいで「離婚貧乏」に転落するのですが、雄大さんはその最たる例でしょう。
(2)「プライド」
「僕は精神的に破壊され、今は理不尽と葛藤しながら暮らす日々です。悔しいです」
そんなふうに「離婚の喪失感」について語ってくれたのは宮下純一さん(45歳)です。純一さんが離婚したのはちょうど3年前。結婚生活の最後の方はほとんど生き地獄も同然で、最終的には妻の不倫が発覚したのが決め手になり、離婚をせざるを得ない状況に追い込まれたそうです。
純一さんは妻の不倫のせいで3人の息子さんと引き離され、念願のマイホームは売りに出すしかなく、実家には顔向けができないので、今は1人寂しくアパートの一室で暮らしています。そんな純一さんもやられっ放しだったわけではなく、鬱憤を晴らすべく、反撃に打って出ました。弁護士に依頼して、不倫相手の男へ慰謝料を請求したのです。
しかし、いつまで待っても相手の男から純一さんの口座へ慰謝料が振り込まれることはなく、また弁護士に「どうなっているんですか?」と尋ねてみても「今やっているよ」「忙しいんだ」「ちょっと待ってくれ」という感じで、最低限の進捗すら教えてもらえず……。
■離婚のせいで傷ついた心 時間の経過とともにますます悪化
結局、純一さんは弁護士に見切りをつけて、今度は自力で行動を起こしたそうです。具体的には不倫相手の男の職場へ掛け合うべく、本社の人事部へ連絡をとったのですが、「プライベートな問題ですので」と取り合ってもらえず、まったく動く気配はなく、純一さんは完全に行き詰まってしまったのです。
「僕は何もかも失いました。でも、元妻や男はどうでしょうか?何も失うことなく、今も平気な顔で暮らしていると思うとやり切れません。不倫は犯罪じゃないんですか!こんな理不尽が許されるんですか?泣き寝入りするしかないんですか!」
このように純一さんは離婚から3年が経とうというのに、気持ちの整理ができていません。私の目には、離婚のせいで純一さんの心についた傷跡は、時間の経過とともに次第に風化するどころか、ますます酷くなっているように見受けられました。
(3)「育児の協力」
「こんなことが許されるんでしょうか?勝手に息子を連れ出し、実家に帰って、そのまま離婚しようだなんて!」
そんなふうに声を荒げるのは山上拓海さん(28歳)。拓海さんは専業主婦の妻、そして5歳の息子さんと暮らしていたのですが、ある日、拓海さんが仕事を終えて家に帰ると、完全にもぬけの殻。そこに妻子の姿はなく、必要な荷物は運び出されており、ダイニングテーブルには鍵が置かれていたそうです。しかも、それだけではありませんでした。
翌日には裁判所から呼び出しの手紙が届きました。それは妻が離婚の調停を家庭裁判所へ申し立てたことを意味していたのですが、妻の計画通りだったとはいえ、次から次へと矢継ぎ早に不幸が襲ってきたので、拓海さんは自分の身に何が起こっているのか、現実を直視できるようなるまで、かなりの時間を要したようです。
そして離婚調停の当日。ようやく拓海さんは気持ちを入れ替えて臨むことができたそうです。なぜ直前まで?拓海さんは当時のことをこのように振り返ってくれました。
「嫁のやり方はとにかくメチャクチャですが、こんな理不尽が裁判所で通用するわけがないでしょう。僕が言うべきことを言えば、きっと息子を取り戻せるし、親権も取れるし、嫁をギャフンと言わせることができるはず!」
拓海さんはそう信じて疑いませんでした。拓海さんは子煩悩で、息子さんが誕生してから別居の前日まで、きちんと子育てを手伝ってきたそうです。例えば、息子さんの行事には必ず参加し、保育で使う布団を用意したり、上履き入れを作ったり、育児には全面的に協力してきたという自負がありました。
■「離婚=男が悪い」との決め付け「女=社会的弱者」なのか?
それ故に、「小さい子どもには父親より母親の方が必要だから」「母親の方が家にいるから」「母親に経済力がなければ、父親に養育費を払わせればいい」などと妻が身勝手なことを言い出しても、思い通りにはならないだろうと高をくくっていたのです。
しかし、調停の場では残念ながら、拓海さんの意見は全くといっていいほど聞き入れられなかったそうです。なぜなら、妻はあろうことかDVをでっち上げたのです。
「旦那の暴力から逃れるため、息子を連れて実家に戻ってきました。旦那のことが怖くて仕方がないので、結婚生活を続けるのは無理です。これからは私が1人で息子を育てていきます」という具合に。
もちろん、拓海さんには身の覚えがなく、妻の言い分は真っ赤な嘘なのは明らかなのですが、いかんせん加害者認定された拓海さんが言い訳をすればするほど胡散臭くなってきて、裁判官や調停委員は被害者である妻の方になびいていったそうです。結局、DVの真偽について触れることなく、「DVの加害者に子どもを任せられないでしょ!」と一喝されてしまい、拓海さんはほとんど何も言い返せないまま、半ば強制的に「親権は妻」という条件で離婚させられてしまったのです。
「離婚の計画や子どもの連れ去り、そして偽装DV……いとも簡単に認められるなんて信じられません。せめて男女平等にすべきでしょう!『離婚=男が悪い』って決め付けるのもおかしいし、『女=社会的弱者』だから保護すべきだなんて、じゃぁ、男はどうなるんですか?これじゃ、完全に逆差別ですよ!許せません!!」
拓海さんは今までの人生、清く正しく生きてきたつもりだし、相手が誰であろうと平等に接してきたそうです。それなのに離婚の件では偏見の目で見られ、差別的な扱いをされ、嘘がまかり通るという悪夢のような経験を強いられたのですが、すべて拓海さんの価値観とは正反対だったので今でも腑に落ちないようで、当時の記憶がよみがえるたびに、胸を締め付けられるような苦しい思いをしているのです。
■子どもとの面会を反故にされ養育費は妻の小遣いに?
(4)「親子関係」
「ようやく嫁と離婚できたのは良かったのですが、息子と会わせてもらえず困っています」
そんなふうに嘆くのは福田和也さん(32歳)。和也さんは離婚してから、まだ8ヵ月目。和也さんから離婚を切り出したので、息子さんの親権は妻に譲るのも致し方ありませんでした。
離婚時には家庭裁判所で離婚調停を申し立て、調停のなかで決めた面会の約束はきちんと書面(家庭裁判所が発行する調停調書)に残したので、和也さんは当然のように息子さんと面会できると楽観していたそうですが、蓋を開けてみたら8ヵ月もの間、一度も息子さんと会えていません。
和也さんいわく、元妻には前もって話を通しており、当日の待ち合わせ時間や食事の場所、送迎の担当などを決めておいたそうです。それなのに元妻は前日になって、「他の用事ができたから行けなくなった」とドタキャンしてきました。最近では元妻の断り文句も巧妙になってきて「○○(息子さんの名前)が『パパに会いたくない』と言っているから」と言い出したそうです。
「もしかして僕の悪口を息子に吹き込んでいるじゃないか」
和也さんは気が気でならないようですが、もはや妻と息子さんとの会話を知ることすらできません。一方で和也さんは離婚から現在まで、毎月せっせと養育費を支払っているのですが、これでは和也さんが元妻に対して不信感を持つのは当然でしょう。「本当に息子のために使っているのか?お前のお小遣いじゃないんだぞ!」。
和也さんは元妻に対して、養育費を何に使っているのか、具体的な内訳を聞き出そうとしたのですが、元妻は知らぬ存ぜぬで何も答えようとせず、挙げ句の果てには「文句があるのなら、息子に会せないからね!」と言わんばかりの態度で、まるで子どもを人質にとっているような物言いだったそうです。
「これじゃ、息子とは『生き別れた』のも同然です。養育費だけ払わされるんじゃ納得いきませんよ。最近は僕のような父親が増えているのでしょうか?本当に頭にきます!」
このように和也さんは「わが子に会えない寂しさ」を日に日に募らせていったのですが、そのせいで心が荒んでいくのも無理はないでしょう。
■悪妻と離婚できても その存在が影を落とす
ところで、悪妻と離婚できたとして、完全に縁を切ることができるのでしょうか?いや「妻の影」を完全に消すことは不可能で、実際には離婚したのにビクビク怯えながら暮らさなければならないケースは少なくありません。「元妻の存在」が影を落とすのですが、番外編として紹介しましょう。
「先日、元妻から連絡があり、『会って話したい』とのこと。のこのこと会いに行った僕も悪いんですが、『よりを戻したい』と言われて困っているんです。そんなことを言われるんだったら会わなければ良かった……」
と、困惑の表情を浮かべるのは田村健太郎さん(33歳)。健太郎さんが妻と離婚したのは昨年のこと。当時はまだ結婚3年目で、娘さんは2歳なので、ちょうど可愛い盛り。どうしてこのタイミングで離婚せざるを得なかったのでしょうか。
「妻の暴力が離婚の原因でした。妊娠中から情緒不安定だったのですが、少しでも気に入らないことがあると手を上げるのです。僕は一切、手を出さず我慢していたのですが、出産してからも日に日にエスカレートするばかり。最後の日は叩かれるだけ叩かれ、逃げるように交番に駆け込み、助けを求めたのです」
健太郎さんは後日、病院に行き、医者の診察を受け、その場で診断書を発行してもらい、その足で警察へ相談しに行ったそうです。しかし残念ながら、「逆DVだから、事件にするのはちょっと難しいですね。本人同士でもう少し話し合ってみてはどうですか?」と、まともに取り合ってもらえませんでした。
健太郎さんが自宅に戻ると、妻は「ごめんなさい」と平謝りし、「もう出て行かないで」と泣き付き、「これからは心を入れ替えるわ」と反省の弁を繰り返したそうです。
■こんな女と結婚したのが運の尽き? 忘れたくても忘れられない存在に
それでも健太郎さんにとって妻の存在はただただ恐怖でしかなく、DVというトラウマを植え付けられた相手と、一つ屋根の下で暮らすことは考えられなかったそう。「また忘れた頃に手を上げるに違いない」という不信感を拭い去ることができず、最終的には離婚に踏み切ったのです。
さて、健太郎さんは元妻からの求婚に対して、どのように答えたのでしょうか?
「実をいうと僕には新しい彼女がいるんです。そもそも元妻のことを今はもう愛していませんよ。それに娘にはどのように説明するつもりなんでしょうか?こんなに簡単にパパとママがくっついたり、離れたりして……信じられません」
元妻はそれでも「子どもに会ってほしい。子どものためによりを戻してほしい」とすがってきたそうで、しかも話し合いの別れ際には「もう恨みっこなしね!」と言われ、半ば強制的に握手までさせられたのです。しかし、元妻が何と言おうと健太郎さんの気持ちが変わることはありませんでした。
結局、元妻は「あなたとは離婚して正解だったわ」とLINEで捨て台詞を吐いた後、いったん連絡は途絶え、健太郎さんは胸をなで下ろしたのです。もともと2人は「元」夫婦で、しかも元妻は健太郎さんに捨てられるような形で離婚したのですが、なぜ今さら、すり寄ってきたのでしょうか?
健太郎さんが察するに……離婚後、元妻は新しい彼氏と付き合っていたけれど、最近、何らかの理由で振られてしまい、心寂しく、人恋しくなり、さらには経済的に厳しくなり、健太郎さんのことを思い出したのではないか、と。
「確かに僕は娘の父親だし、彼女は母親です。そのことは一生、変わりません。しかし、僕と彼女は赤の他人です。こんな女と結婚したのが運の尽きなのでしょうか?これで最後なら良いのですが、これからも娘をダシにして好き勝手なことを言ってきそうで頭が痛いです」
健太郎さんはようやく離婚できたのに、今でも元妻の影におびえながら、肩をすくめるように暮らしています。妻という存在は、いったん離婚したとしても、忘れたくても忘れられない存在として付きまとうのです。
■離婚経験者の悲痛な叫び共感するか、開き直るか
今回は離婚経験者の男性の悲痛な叫びを紹介してきました。「これを読んで何が変わるの?」あなたはそうやって首をかしげるかもしれません。確かに、清原容疑者や高岡奏輔のように離婚「後」に、悩んだり、苦しんだり、頭を抱えている人の「諸悪の根源」を解決するほどの効果は期待できないでしょう。
ただ「何の意味もないのか」というと、そんなことはありません。「そう、そう、そうなんだよね」と共感できる話が1つや2つはきっと含まれているはずです。現在、苦境にある人でも、「こんなに辛い思いをしているのは自分だけじゃない」と共感することができるのではないでしょうか?
「結構、みんな大変なんだな。じゃぁ、もう少し頑張ってみようか」と開き直ることができれば、イライラやモヤモヤが多少でも晴れて、大量のアルコールや薬物、そして暴力に頼らずに生きていけるのではないでしょうか。読者のみなさんが清原容疑者や高岡奏輔を反面教師にし、道を踏み外して人生を台無しにすることがないよう願っています。
(文中敬称略)
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