両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成27年4月8日、日経DUAL

日本の一人親世帯の「貧困率」世界でもトップ/「子どもが非行に走る確率」を家庭タイプ別に見てわかったこととは……

統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。今回は「家庭環境と非行」について取り上げます。 

 統計で見ると、母子家庭や父子家庭では、両親がいる家庭よりも子どもが非行に走る確率が高くなっています。ですがこれは、日本の一人親世帯の「貧困率」が著しく高いことによる問題が大きいのではないでしょうか。

 こんにちは。武蔵野大学講師の舞田敏彦です。神奈川県川崎市で中1生徒が殺害される事件が起き、非行問題への関心が高まっています。非行(delinquency)とは、未成年者による法の侵犯行為の総称です。「わが子が非行に走りはしないか」。思春期の子がいる親御さんは、常に気をもんでおられることでしょう。

 前置きなしに本題に入りますが、非行は家庭環境と密接に関連しているといわれます。血縁に由来する第1次集団としての家庭は、子どもの人格形成に強い影響力を持つからです。

 家庭環境といってもさまざまな側面がありますが、第7回の記事「家族の親密さ、養育態度と子どもの非行の関係は?」では、保護者の養育態度に焦点を当てました。そこで分かったのは、凶悪犯の少年には放任的な養育態度の親が多く、溺愛された少年は性犯罪に傾きやすい、という傾向です。

 今回は、それよりも前段に位置する、家庭の構造面の要因に注目したいと思います。具体的には、親の有無によって非行の確率がどれほど異なるかを明らかにします。

母子家庭と父子家庭を比べてみると……

「また身も蓋もないことを…」と思われるかもしれませんが、当局もこの問題には関心を持っているようで、警察庁の犯罪統計では、両親の状態別に非行少年の数が集計されています。ちょっと古いですが、2010年のデータは以下の通りです。刑法犯で検挙・補導された非行少年の数であり、14歳未満の触法少年も含みます。

 両親ありの世帯 …… 6万5791人
 母子世帯(父なし) …… 2万9843人
 父子世帯(母なし) …… 6893人

 両親ありの者が最も多いですが、少年全体でみても両親ありの世帯で暮らしている者が大半ですので、当然といえばそうです。それぞれの世帯類型から非行少年が出る確率を出すには、ベース人口で割った出現率を計算する必要があります。私は、2010年の「国勢調査」の原統計にあたって、割り算の分母に充てる数値を採取しました。上記の3タイプの世帯に属する10代少年人口です。それでは、計算の結果をみていただきましょう。
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 非行少年の出現率は、両親ありの世帯では1000人あたり7.9人ですが、母子世帯では20.8人、父子世帯では39.4人です。分子が延べ数であることに注意が要りますが、非行少年が出る確率を大雑把に見積もると、両親ありの世帯では127人に1人ですが、母子世帯では48人に1人、父子世帯では25人に1人となります。一人親世帯にあっては、無視できる確率ではありません。

 上表の右欄には、両親ありの世帯の出現率を1.0とした倍率を掲げています。これによると、母子世帯からは通常の2.6倍、父子世帯からは約5倍の確率で非行少年が出ていることがわかります。

重い非行に走りがちになる?

 ところで、ひと口に非行といっても、いろいろな罪があります。多くは万引きのような非侵入盗ですが、殺人のようなシリアスなものもあります。そこで、罪種ごとの出現率も出してみました。それぞれの罪の検挙・補導人員数を、表1のベース人口(a)で割った値です。図1は、世帯類型間の差を表す倍率を折れ線グラフにしたものです。
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どの罪種も、右上がりの傾向を呈しています。暴行や傷害などの粗暴犯は、直線的な増加傾向です。シリアスな凶悪犯(殺人、強盗、強姦、放火)の出現率は、母子世帯と父子世帯の間の断絶が大きくなっています。非行の多くを占める窃盗犯は、表1で見た全体的な非行率とほぼ同じです。量的に少ない知能犯や風俗犯では、家庭環境の差は相対的に小さくなっています。

 以上のデータから、親の有無によって非行の頻度はかなり異なること、シリアスな非行ほどその差は大きいこと、が分かりました。想像はしていましたが、このように数値で出てくると唖然とするものがあります。

 片方の親の不在と非行がどう関連するかですが、生活の主要な場である家庭において、情緒安定機能が十分に果たされないことが原因だとよく言われています。アメリカの社会学者のタルコット・パーソンズは「現代の核家族において、成員の情緒安定を図る表出的機能を担うのは母親」であると説いていますが、なるほど、母子世帯よりも父子世帯で非行少年出現率が高いことは、そのようなことを思わせます。

 片方の親の不在によって生活態度が不安定化した子どもが、心の空白を満たすべく盛り場などに繰り出し、何らかの非行誘発要因に遭遇した場合、当人が非行に傾斜する確率は高くなりがちとみることができるでしょう。

■「豊かさの中の貧困」に陥ってしまう

 それと言わずもがな、一人親世帯にあっては、貧困という問題が横たわっています。新聞などで昨年、「平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の子どもの割合を示す『子どもの貧困率』は2012年で16.3%と過去最悪を更新、国際的にみても高い水準」などと報じられましたが、一人親世帯に限ると値はグンと跳ね上がります。図2は、子どもの貧困率の国際比較図です。年収が中央値の半分に満たない世帯で暮らしている18歳未満の子どもが、全体の何%いるかです。
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 2010年時点でわが国の子どもの貧困率は、両親ありの世帯では12.7%ですが、一人親世帯では50.8%と半分以上にもなります。後者は世界でトップであり、一人親世帯の貧困化が最も著しい社会であるようです。

 むろんこれは、一国の内部の相対的貧困率であり、衣食住にも事欠くような絶対的な貧困状態にある世帯はごくわずかでしょう。しかし、周囲と比べた「相対的な貧困」が子どもの自我を傷つけることは多々あります。思春期にもなれば、やれケータイだとかスマホだとか、仲間との交際にもカネがかかるようになり、それが叶わないとつまはじきにされる。そのことで子どもが味わう疎外感は、小さなものではありますまい。「豊かさの中の貧困」という状況は重いのです。

 最初のページの表1によると、一人親世帯に属する10代人口はおよそ161万人であり、全体の13.4%に相当します。子どもの7人に1人が一人親世帯で暮らしているわけで、決して少数派ではありません。といっても、標準家族を前提としてさまざまな制度が組み立てられているわが国にあっては、この層は現実には大きな困難に遭遇することになります。

社会全体で子どもを育てることはできるか?
 そこで公による支援が求められるわけですが、それは経済面に留まるべきではなく、子どもの生活全般にわたる目配りをも含むべきでしょう。ただでさえ忙しい保護者や教師だけの手に負えることではありませんが、そうした仕事を担うサポート資源は存在します。たとえば、スクールソーシャルワーカー(SSW)です。川崎の事件の被害生徒は不登校状態にあり、母親も仕事に忙しく当人の生活状況を把握できなかったそうですが、このような子どもに直に働きかける役割を担う専門職です。

 これから先、退職高齢者のように、生活の多くを自地域で過ごす「地域密着人口」が増えてきます。その中には、子どもの教育や心理について専門的な知識を持つ人材もいることから、上記のような外部専門職のなり手としても期待できます。不遜な言い方かもしれませんが、この「資源」を活用しない手はありません。よくいわれる「社会全体で子どもを育てる」の具体的な姿は、こういうことではないかと思います。それはまた、読者の皆さんのような共働き夫婦(デュアラー)が増えることの条件にもなるでしょう。

 話が大きくなりましたが、「家庭環境と非行」という古くて新しい問題はこうした視野で捉えるべき問題であって、「一人親世帯の親の監督不行届、しつけ不足」というような、個々の家庭の問題に矮小化されてはならないことは確かです。

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