平成27年4月8日、中日新聞
ハーグ条約1年 「子のため」を最優先
両親のどちらかが国外に連れ去った子どもの扱いを定めたハーグ条約に日本が加盟して一年。国際結婚だけでなく日本人夫婦にも適用されている。連れ去りは子どものためにならないと徹底したい。
外務省によると、日本が条約加盟した昨年四月から一年間で、裁判や話し合いなどで日本に連れ帰った子どもを外国へ戻したケースは三件、外国に連れ出した子どもを日本に帰したのは四件あった。
条約では子どもが育つ環境を変えないために、ドメスティックバイオレンスなどの返還拒否事由がない限り、原則として速やかに子どもを元の居住国に帰すのがルールだ。国際ルールの枠外にいた加盟前なら、子の返還を求めて申し立て、結論が出るまでに一年、二年かかったケースでも、この一年は一カ月でも返還命令が出るようになった。これは条約に加盟したメリットだろう。裁判で時間がかかっている間に子どもが新しい土地に定着するという問題も避けられる。子どもを連れ去られた親が養育から疎外される問題も少なくなるのではないか。
外務省には、返還や面会交流を求めた援助申請が百十三件あったが、約一割が日本人夫婦のケースだったのは目を引く。海外で勤務したり生活することが珍しくなくなった今、条約の対象になるのは国際結婚した夫婦に限らない。
昨年七月には日本人の子どもに初めて条約が適用された。日本人の父親が日本人の母親とともに英国に出国した子ども(当時七歳)の返還を求め、英国政府が支援を決定。ロンドンの裁判所は「ハーグ条約上、違法な状態」と判断し、子どもを日本に戻すよう命じた。子どもは日本に帰国後、家裁での調停で母親のいる英国に戻った。
国際ルールの下で、連れ去りはいけないと広く知らせた意義は大きい。離婚後も両親ともに親権を持つのが主流の欧米では、両親が子どもと関係を維持しようとする。それに対し、離婚後は一方の親しか親権を持てない日本では、両親で子育てに関わる視点が弱い。連れ去りが後を絶たない。
ハーグ条約は一方の親による子の連れ去りを、他方の親の権利を奪うだけではなく、子が親と関係を維持しながら育つ権利を阻む行為とみなす。
子どもは親に従属する存在ではない。日本も親権の共同化や、親子の面会交流権の保障など国内法を整えていくべきではないか。「子のために」という視点を守っていきたい。