両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成24年8月28日、朝日新聞

〈私の視点〉離婚後の親子関係 子のために共同親権を

■コリン・ジョーンズ(Colin Jones)さん 同志社大教授(英米法・比較法)

 今春、離婚や親子関係にかかわる民法の親族編が大きく変わった。たとえば親の権利・義務を定める820条には、親権は「子どもの利益のために」行使しなければいけない、と明記された。また766条では、子どものいる夫婦が協議離婚をする場合、面会交流や養育費に関する取り決めが義務付けられ、子どもの利益を最大限に考慮することも定められた。

 全般に子どもの利益に関連する改正が目立つなか、離婚後の単独親権制度が改正の対象にならなかったのは、画竜点睛(がりょうてんせい)を欠くとしかいいようがない。離婚後も共同親権が「子の利益」の国際標準なのに、日本では、離婚すればどちらかの親は戸籍上の他人にならなければならない。これで「子の利益」を高唱できるだろうか。「子の利益」を巡り、民法は大きな矛盾を抱えたとすら、私は思う。

 けんかの絶えない夫婦は、離婚した方が子のためと思い、協議離婚を選ぶケースも少なくないだろう。子どもの成長を考えれば、離婚後も共同親権で二人で養育したいと願うのは、自然な流れだ。しかし現在の単独親権制度の下では、「子の利益」のための離婚がそうはならず、離婚に踏み切れなくなってしまう。

 離婚後の親子関係はイチかバチかの勝負。それが日本の実情なのだ。そこでは、すんなり協議離婚できるはずの夫婦が、子が争点になったために激しく対立し、離婚訴訟にまで発展しかねない。優位に立とうと、先に子どもを連れ去った方が、子に「パパ(ママ)に会いたくない」と言わせるにいたっては、単独親権制度の弊害以外のなにものでもない。

 そんなゆがんだ勝負はもう、やめよう。今回の改正で「子の利益」に焦点があたったのを機に、共同親権つきの離婚を求める夫婦が、「子の利益」とは何なのかという根源的な課題について、あらためて司法の判断を求めたらどうだろうか。離婚後に共同親権の継続を望む夫婦には、双方が重んじる子の利益にくわえ、個人の尊重、両性の平等、幸福の追求権など主張できる憲法上の材料はたくさんある。単独親権制度を固持する側には、どういう理論があるのだろうか。

 そもそも単独親権の制度は、離婚後の子の幸福を考えてのものではなく、戦前の家制度の遺産にほかならない。今回の民法改正で日本の親に子どもへの配慮義務が課された以上、司法も古い概念にとらわれることなく、いかに子の利益が実現されるかを考えるべきであろう。

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