両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

平成23年6月9日、毎日新聞

これが言いたい:ハーグ条約締結問題の放置は許されない=弁護士・大谷美紀子

  ◇「子の利益」最優先の議論を
 国際的な子どもの奪取に関するハーグ条約を締結する方針を政府が発表した。「拙速」との意見があるが、私はそうは思わない。

 日本人が他方の親の同意なく子どもを外国から日本に連れ帰ったままになってしまう問題は、2000年代の初めごろから国際的な議論となっていた。にもかかわらず、政府は何の手も打ってこなかった。我々司法関係者も真剣に議論してこなかった。逆に子どもが日本から一方的に連れ出される問題についても手をこまねいてきた。

 外国での結婚が破綻し子どもを連れて母国に帰ったところ「誘拐犯」と言われ国際手配された母親。誘拐されたとして写真や名前がウェブサイトに出されたまま、一方の親やその国との関係が断たれたままの子ども。外国の裁判所に子どもを日本に連れ帰ることを止められた母親。ハーグ条約という耳慣れない問題について情報もなく誰にも相談できず、どれだけ心細かったことか。日本から子どもを外国に連れ去られ、どこに相談しても助けてもらえなかった母親・父親がどれだけいたことか。

 「家族の問題に国は介入しない」としてこの問題を国が放置することによる最大の被害者は子どもである。国際結婚の破綻に伴う国境を越えた子の監護権紛争は、国家主権の壁や法制度の違いのため、あまりに複雑で、個人の問題として片付けることはできない。解決には国家間の協力が必要である。

 政府が条約締結の是非を検討して方向性を決め、締結するならその準備を、締結すべきでないとすれば他の解決策を示すことが急務だった。国民のため、さらに外交的観点から条約に入ることが有益であると判断し、提案することは政府の役目である。締結方針を明確に国民に示した今回の決定を歓迎する。

 政府の提案を承認するか否かは国民を代表する国会の判断にかかる。本格的な議論はこれからすればよい。そのために政府は必要な情報を開示し、開かれた形で議論を進めることが必要だ。

 条約は国境を越え一方的に元の居住地の国から連れ出されたり、帰されないことによる有害な効果から子どもを保護するために作られた。実際には条約が前提としていた母親の下で監護されている子どもを父親が奪い自国に連れ帰るケースより、子どもを監護していた母親が自国に子どもを連れ帰るケースの方が多いことが報告されている。

     *

 また、約30年の条約運用の中でドメスティックバイオレンス(DV)から逃れ母国に戻った母親や、子どもを連れ出し刑事訴追を受ける恐れのある母親が子どもと共に戻ることができないケースが問題として浮かび上がってきた。日本で懸念されているこれらの問題は実は、日本特有の問題ではない。問題にどう対処するのか、条約の運用のあり方が国際的に議論されている。

 日本が子どもの権利保護の観点からこの国際的なルールに参加し、子どもの人権が確保されるよう国際的な議論に加わるべきであると私はかねて主張してきた。政府は国民に対し条約に入ることがなぜ必要で有益なのか、国際結婚の当事者の不安・懸念にどう応え、どういう支援をしていくのか、さらに担保法の策定をはじめ支援体制の整備の計画を示すべきだ。

 課題は多岐にわたる。この条約の運用が真に子どもの利益にかなったものとなるよう、国際世論をリードしてもらいたい。

 ■人物略歴

 ◇おおたに・みきこ
 コロンビア大学国際関係修士(人権人道問題)、日弁連国際人権問題委員会副委員長。

powered by Quick Homepage Maker 5.2
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional