両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和元年12月2日、朝日新聞

(記者解説)離婚後の子、どう守る 大阪社会部・長富由希子、専門記者・杉原里美

 夫婦の3組に1組が離婚する時代。親が離婚した子は20万人を超え、1950年の約2.7倍に増えた。母親が引き取ることが多いが、母子家庭の7割超は養育費を受け取れず、立て替え払いを検討する自治体も出てきた。一方、父親の約半数は離別した子と交流したことがなく、面会を求める訴訟が相次ぐ。離婚後の子の養育を社会はどう支えるべきか。

 ■養育費不払い多発、個人の対応に限界 大阪社会部・長富由希子
 元夫の不倫が原因で3歳と7歳の子を連れ、約5年前に離婚した神奈川県の会社員女性(36)は嘆く。「出来ることは全てしたが、元夫が養育費を払わない。このままでは子どもを大学に行かせられない」
 2人で計月14万円。裁判所の調停で離婚した際、会社社長の元夫の収入などから養育費の額は決まったが、約1年で不払いになった。裁判所から「不払いになっても相手の財産を差し押さえる強制執行がある」との説明を受けていたが、手続きの大変さに驚いた。
 法律を調べ、裁判所が元夫に支払いを促す「履行勧告」をしたが、強制力がなく反応がない。元夫の預貯金の差し押さえを考えたが、口座がある銀行の支店名まで自分で探す必要がある。夫の行動範囲の銀行を探し、法務局などで銀行の代表者事項証明書などを取り、裁判所に強制執行を申し立てた。
 弁護士への依頼も考えたが、15万円と言われた着手金が払えない。自力で手続きを進めて三つの口座を差し押さえたが、離婚時に相当額あった残高は、10万円以下に激減していた。女性は「養育費から逃げるマニュアルがネットにあふれている。元夫が強制執行を恐れ、貯金を移したと思う」と肩を落とす。元夫は再婚した相手とも離婚し、今は新しい彼女がいて、海外旅行も楽しんでいると知人に聞いた。
 来春からは手続きが少し楽になる。改正民事執行法が施行され、不払いの親の勤務先や預貯金の情報提供を裁判所が市町村や銀行などに命じられる。養育費に詳しい榊原富士子弁護士は「前進だが、調停調書などの公の文書で養育費を決めた人だけが対象。手続きの時間や精神的余裕がない親が多い。そもそも、養育費を決めていない母子家庭が過半数。根本解決からほど遠い」と話す。
 労働政策研究・研修機構の調査では、子と別居する父の年収が500万円以上の74%もが不払いだ。養育費を受け取る母子家庭は厚生労働省の2016年度調査でわずか24%。OECDによると、子がいる大人が1人の現役世帯の相対的貧困率は先進国で最悪水準だ。小川富之福岡大教授(家族法)は「政策決定の場に女性が少なく、困窮した母子の政治的影響力も小さい中、国が放置してきた」と指摘する。
 この事態にしびれを切らしたのが兵庫県明石市だ。市が養育費を立て替えた上、親に市が請求する独自条例案の検討を始めた。子が市民の場合に限られる見込みで、泉房穂市長は「国が動いて」と訴える。
 子どもの権利条約は、扶養料の確保策をとるよう締約国に求め、欧米や韓国は不払いへの罰則や立て替え払いで積極介入する。「私人間の紛争に行政は介入すべきでない」との考えもあるが、同志社大の横田光平教授(行政法)は「建設工事の請負契約の紛争解決など、私人間の紛争への行政の関与はあり、ハードルではない」とみる。
 小川教授によると、豪州も1988年調査の「養育費支払率」は34%だが、「子の貧困の撲滅」をめざして養育費対策法を80年代後半に制定し、徴収する行政機関をつくった。父母の課税所得の情報を国税局から受けて額を毎年自動調整し、不払いには給与の強制的な天引きや出国禁止も実施。近年の徴収率は養育費支払総額の97%にのぼる。
 「離婚相手と関わりたくない」「相手からDVを受けていた」――。不払いには多様な事情もあり、元夫婦だけで解決するのは限界がある。その中で「離れて暮らす親は経済力があるのに、自分の食費や教育費を払ってくれず、生活が苦しい」という子どもたちがいる。安倍晋三首相は4年近く前の16年1月の参院決算委員会で「子どもの貧困対策は未来への投資であり、国を挙げて推進していく」と述べている。政府は、いつまで、多発する養育費の不払いから目をそらすのか。

 ■面会に強制力なし、共同親権求める声 専門記者(家族担当)・杉原里美
 11月の週末、都内のコンビニの駐車場で、NPO法人ウィーズの職員が40代の母親から小学生の男の子2人を預かり、父親が待つ近くの施設へ向かった。子どもたちは父親と2時間ボール投げなどをして遊び、別の場所で母親に返された。
 ウィーズは離婚や別居した親子の面会交流を支援する団体だ。顔を合わせたくない父母の間に入り、仲介する。
 母親は面会に消極的だったが、離婚への疑問が消えない子どもたちを見て「自分の目で判断してほしい」と父親に会わせている。「元夫に子どもを連れ去られないか不安だったので、第三者が見守ってくれるのはありがたい」
 ウィーズ理事の羽賀晃さん(47)は「親と会えば似ているところが分かったり、話を聞いて離婚を納得できたりする。子の自己肯定感を育てるためにも、面会交流は重要だ」と話す。
 だが、日本では離婚後も両親と子どもが交流を続けるケースは少ない。
 日本は離婚すると父母の片方しか親権を持てない「単独親権」を採用しており、母親が子を引き取るケースが約9割と圧倒的だ。「夫婦の離婚」が「親子の絶縁」につながっている。
 民法では、離婚時に親子の面会交流や養育費を取り決めると定めているが、強制力はない。厚生労働省の2016年度調査では、母子家庭の46%は父と子の面会交流の経験がなかった。
 一方、欧米では離婚後も子どもが双方の親から養育を受けられるよう、「共同親権」が主流だ。アジアにも広がっており、韓国は08年から、子がいる夫婦の離婚では、面会交流の日程や養育費の受取口座などを記した協議書の提出を義務づけた。家庭法院(家裁)で最長1年間、面会交流の支援を無料で受けられるところもある。
 日本への視線は厳しさを増す。今年2月には、国連子どもの権利委員会が離婚後も子どもの共同養育を認めるよう日本に法改正を勧告した。
 法務省は11月、家族法研究会を設け、ようやく共同親権の是非を含めた議論を始めた。ただ、「方向性は定めない」(発表当時の河井克行法相)としており、親権や面会交流のあり方が変わるかは不透明だ。
 政府の腰は重いが、現状を変えようとする動きは強まっている。
 離婚などで子に会えなくなった父母14人が18年、面会交流制度の不備を訴えて集団提訴。11月22日の東京地裁判決は「面会交流は憲法上保障された権利とはいえない」と退けたが、同じ日には離婚後の共同親権を求める集団訴訟も新たに東京地裁に起こされた。
 ただ、面会交流や共同親権を進めることに慎重な意見もある。ひとり親支援団体でつくる「シングルマザーサポート団体全国協議会」は、共同親権の導入に否定的だ。離婚訴訟で精神的なDVが認められにくいため、「DVから母子が逃げた後も夫による支配が続く」という懸念が念頭にある。
 DV防止は重要だが、親権を失い、子どもに会えなくなっているのはDV加害者ばかりではない。これまで取材で会った人たちの中には、育児に積極的に関わっていた父親や、DV加害者の夫に子どもを奪い取られた母親もいる。子どもの立場からみても、一方の親に急に会えなくなった経験を持つ子は、親密な人間関係を築くのが苦手になるという調査結果もある。
 離婚で子どもの親権をめぐって争いになるのを防ぎ、子どもの人格を尊重するためにも、養育費や面会交流の取り決めを義務化し、問題なければ共同親権も選べる制度が必要ではないか。
 韓国では、離婚制度改正時に民間のDVシェルターへの予算を増やし、加害者の処罰と被害者保護を強化した。米国・カリフォルニア州では、面会交流の部屋に危険があれば警察に通報できるボタンがあった。海外の事例も参考に、法整備を急いでほしい。

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