両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指します

令和元年10月10日、PRESIDENT Online

「娘が車のトランクに」日本で横行する実子誘拐 「連れ去り勝ち」にEU各国が抗議

  日本は離婚すると親権が父か母のどちらかにうつる。だが、こうした「単独親権」を採るのは、G20の中で日本とインド、トルコだけだ。ほかの国では離婚後も父母ともに親権がある「共同親権」のため、国際結婚ではトラブルが起きやすい。なかでも深刻なのが相手の了解なしに子どもを連れ去る「実子誘拐」だ——。

娘は車のトランクに入れられて「誘拐」された
2018年8月、東京・世田谷に住むフランス出身のヴィンセント・フィショ氏は、仕事から帰ると自宅が空っぽになっていたことに愕然とした。妻と3歳の息子、11カ月の娘が、忽然
こつぜんと姿を消していた。一体何があったのか……。
両親の離婚後、子どもの親権について父親か母親かのどちらかに帰属する「単独親権制度」を採る日本。「相手方に取られる前に子どもの親権を自分のものにしたい」と、ある日突然、実子を連れ去る「実子誘拐」が横行し、外交問題にまで発展しようとしている。
フィショ氏の場合、妻側の弁護士から後日「今後のご連絡等はすべて当職までいただきたい」とする紙切れ一枚が届き、以来、子どもと会うことはおろか、連絡を取ることもできず、何をしているのかもわからない状態だ。
後で防犯カメラの映像を確認すると、彼の娘は自宅のガレージから車のトランクに入れられて実の母親によって「誘拐」されたという。「実子誘拐は児童虐待で、深刻な人権侵害だ。日本はなぜこのようなことがまかり通るのか」と彼は憤る。

「子どもたちの権利のために闘いたい」
イタリア出身で東京在住のトッマーソ・ペリーナ氏は、妻が休暇で2人の子どもを連れて実家に帰った際、その数日後に妻から「離婚したい」と告げられたという。ペリーナ氏は、2017年8月から息子と娘に会えていない。
仙台家庭裁判所は、彼に子どもと会うことができる「面会交流権」を審判で認めたが、彼の妻はその命令の受け入れを拒否し、住所も変えてしまった。日本の警察は、彼の子どもたちの居場所を把握しているが、イタリア大使館が警察や外務省に問い合わせても回答はない。
ペリーナ氏は、子どもに会うために、さらに同家裁に「調停」を申立てることになる。このような家裁の手続きの慣習により、連れ去られてから再び会えるまで、さらに長い時間を要することになる。子どもに会えないまま、すでに2年がたっている。
「子どもたちには、父親、母親の両方と一緒にいるための権利がある。自分の権利のためではなく、子どもたちの権利のために自分は闘いたい」と彼は「宣戦布告」する。

世界でも珍しい「単独親権制度」の日本
フィショ氏もペリーナ氏も、それぞれの大使館を通して子どもたちの身の安全を確認するよう要請しており、各国大使は日本に滞在している本国の未成年者の住所や健康事情などを把握する責任があるが、これに対する協力を別居親自身も日本政府も、拒否している状況だ。これについての大使の権限はウィーン条約の取り決めのため、この条約を日本は守っていないことになる。
単独親権制度は、世界でも珍しくG20の中では日本とインド、トルコのみだ。ほかの国は離婚後も両親ともに親権がある「共同親権」制度となっている。
フィショ、トッマーソ両氏のようなケースは、日本人同士の夫婦においても横行しており、これまでに数十万人の子どもたちが一方の親から引き離されている。
近年の国際結婚の増加により、外国人がこうした「連れ去り」の被害者となり、日本政府や国連への抗議活動を行い、こうした問題を指摘し始めた。それによって、今、深刻な外交問題となりつつある。

26人のEU加盟国大使が日本に文書を提出
子どもたちが日本で誘拐されて以降、日本に住み続けているフィショ、ペリーナ両氏は、ヨーロッパで、この問題への関心を向ける政治的な働きかけも行う。昨年、26人のEU加盟国大使が親に会う子どもの権利を尊重するよう日本に訴えかける文書を出したが、その動きを後押ししたのも彼らだ。
今年6月には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、フィショ氏やほかのフランス人の父親と会談。安倍晋三首相に彼らの状況について問題提起した上で、「容認できない」と言及した。
イタリアのジュゼッペ・コンテ首相もまた、6月に大阪で開催されたG20のグループ会議でイタリアの両親の権利について安倍首相と話した。以来、フランスとイタリアのメディアは頻繁にこの問題を取り上げている。
8月、フィショとペリーナ両氏は、ほかの7人の父親と1人の母親とともに、米国、カナダ、フランス、イタリア、日本にいる14人の子どもの代理として、国連人権理事会に正式に告訴を申立てた。今の状況が、「子どもの権利条約」および「国際的な子の奪取に関するハーグ条約」に大きく違反しているためだ。

国連は法律の改正を日本政府に勧告した
日本は1994年に子どもの権利条約に批准しているが、「児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する(9条1項)」などとする条約内容に明確に違反する状態となっている。
このため、国連の子どもの権利委員会は今年2月、共同親権を認めるために離婚後の親子関係に関する法律を改正することを日本政府に勧告した。日本が「単独親権」の状態のまま問題を放置していることを、国際社会から公然と非難されているということだ。
この問題に取り組む上野晃弁護士は、日本人同士の夫婦で同じように事実上誘拐され、もう一方の親との接触を断たれる子どもたちは「年間数万人に上る」と話す。多くの場合、父親が連れ去りの「被害者」となるが、彼らが子どもに会おうとしても、政府や裁判所は助けてはくれない。
裁判所は、これまでの子どもの生活拠点を優先する「継続性の原則」を適用して、一方の親(たいていは母親)に親権を与える。また、刑法の未成年者誘拐の規定は「実の親はのぞく」といった規定は設けられていないにもかかわらず、実の親が子どもを連れ去った場合は、誘拐には当たらない慣習となっている。時間がたって子どもが新しい環境に馴染
なじめば、「誘拐」の事実はなかったことになり、連れ去った側のみに親権が与えられることになる。

「DVがあった」と主張すれば親権が奪える
上野弁護士は、「問題は日本文化に深く根差している」と言う。伝統的に、子どもは一人の人格を持った人間というより、「家の所有」と考えられている。子どもが新しい家に移されると、引き離された側の親は、新しい家に介入する権利のない「部外者」にされてしまう。「数え切れないほどの数の子どもを奪われた日本の親たちが沈黙を強いられている」と語ります。
また、日本では、ドメスティックバイオレンス(DV)の申立ての真偽を評価する仕組みがなく、その結果、DVの申立ては離婚の際に当たり前のようになされる。DVの申立てをすることで、相手方と子どもとの交流を拒否する根拠となり、「確実に親権を奪える」ことになる。
フィショとペリーナ両氏はどちらもDVの申立てがなされ、その主張を覆すことができた。フィショ氏は、妻が「家に閉じ込められていた」と主張した2週間の間に買い物と外食をしていたことを、領収書や銀行取引明細書、写真などで証明し、ペリーナ氏に対する申し立てについては、裁判所は「虚偽である」と判断した。

裁判所はフィショ氏の親権の主張を退けた
今年7月、DVの認定はされなかったものの、裁判所はフィショ氏の親権の主張を退けた。裁判官は、「妻は1年以上子どもの世話をしており、子どもたちの教育により深く関わり、より多くの愛情を持っていた」と判断したのだ。車のトランクに子どもを入れて連れ去ったことについては、「本人かどうか特定できない」。フィショ氏は、「家のガレージから連れ去られて、母親ではないなら誰なの? それこそ大事件でしょ」とその判断のおかしさを指摘する。もっともだ。
こうしている間にも、単純計算で数十人の子どもたちが国内で一方の親から引き離されているかもしれない。フィショ、ペリーナ両氏は、今後も国内外で訴えを強めていくという。
国内の政治家、行政、裁判所も、海外からの声にようやく、重い腰を上げる時が来た。実子誘拐が犯罪となり、子どもたちが親から引き離されなくなる制度が実現する日が、もう目の前に来ている

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